交通量と事故コストの恐ろしい関係

 さらに厄介なのは、交通量と事故コストの関係が「比例(線形)」ではなく「加速度的(非線形)」に悪化することだ。

 自動車の衝突事故は通常、2台以上の車両が同じ場所に同時に存在することで発生する。道路に車が1台しかいなければ、他車との衝突は起きない。しかし、車が増えるほど、車同士が接近する機会が増え、事故の確率は急上昇する。これは単純な足し算ではなく、掛け算のように増えていく。

 エドリンらアメリカでの研究は、この非線形性を実証した。彼らはアメリカ各州のデータを分析し、交通密度が高い州では、走行量が1%増えると、社会全体の事故コストが1%以上増加することを明らかにした。推計によれば、交通量の多い州では、その増加率は3.3%から5.4%にも達する。

 つまり、ガソリン税を下げて交通量が少し増えるだけで、その「混雑」によって事故リスクが爆発的に高まり、結果として全員が高い自動車保険料を払うことになるのだ。

年間26万円超の外部コスト、カリフォルニア州の衝撃

 では、この外部コストは具体的にどれほどの規模なのか。エドリンらは、州ごとに「ドライバーが1人増えることで、他者に与える保険コスト」を計算した。

 カリフォルニア州のような高密度地域では、典型的なドライバーが1人増えることで、全体の保険費用を年間1725ドルから3239ドル(約26万円から50万円相当)も増加させることが判明した。

 一方、ドライバー自身が払っている保険料は1人あたり平均744ドルに過ぎない。つまり、自分が払っているコストの2倍から4倍もの迷惑を周囲にかけている計算になる。

 対照的に、ノースダコタ州のような低密度地域では、ドライバーが1人増えても外部コストはほぼゼロ(10ドル程度)だ。交通量が少ないため、新たな車が加わっても他車との衝突機会がほとんど増えないからである。

 この差は、都市部や交通量の多い地域において、ガソリン減税による交通量増加が、経済的に見て「割に合わない」選択である可能性を示している。