偶然?それとも意図的?

 さて、《曜変天目》はいったいどのようにつくられたのだろうか。これまで日本では《曜変天目》の製法を解明するために研究が進められてきた。その中には、「偶然の産物である」という見方もあれば、「当時の陶工たちの科学的経験則に基づいたものだ」という意見もある。ここでは中国杭州市出土の曜変天目陶片を調査し、2023年に中国科学院上海硅酸塩研究所が公表した研究結果を紹介したい。

 同所の研究によると、“杭州曜変”の斑文は「銀」粉に「鉛」粉を加え、有機接着剤と混ぜた「上絵具」によるもの。それを筆で点描した後に、約1000℃で二次焼成。低融点の「鉛」が先に蒸気化してガラス膜を形成し、その後に高融点の「銀」が蒸気化し微小球状となって釉の中に沈着したと考えられるという。

 銀や鉛を用いて意図的に斑文をつくったとする新しい見解。この説は正しいのだろうか。もちろん、この説のように意図的な手法も考えられるが、高火度焼成中に偶然生じた可能性も捨てきれない。複数の製法が存在していたとしても、不思議ではないだろう(以上、「黒の奇跡・曜変天目の秘密」のパネル展示より引用、抜粋、再構成)。

重要文化財《油滴天目》建窯 南宋時代(12〜13世紀)静嘉堂文庫美術館

 展覧会では《曜変天目》のほかにも、「黒」をテーマに静嘉堂が所蔵する数々の名品を紹介。《油滴天目》《禾目天目》《玳玻天目》《灰被天目 銘 埋火》など、数々の貴重な唐物天目。刀剣や鉄鐔など「黒鉄(くろがね)」と呼ばれる鉄を材料にした工芸品。「漆黒(しっこく)」の漆芸品。東洋美術に欠かせない「黒」の世界を様々なかたちで楽しみたい。

重要美術品 源清麿《刀 銘 清麿/弘化丁未年八月日》 江戸時代・弘化4年(1847) 附《小倉巻柄打刀拵》明治時代(19世紀) 静嘉堂文庫美術館

「黒の奇跡・曜変天目の秘密」
会期:開催中~2025年6月22日(日)
会場:静嘉堂@丸の内
開館時間:10:00~17:00(毎月第4水曜日は〜20:00、6月20日(金)・21日(土)は〜19:00) ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日、5月7日(水)(5月5日(月・祝)は開館)
お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)

https://www.seikado.or.jp/exhibition/current_exhibition/