あなどれないスロバガンダの説得力
いくら生成AIが大量のコンテンツを瞬時に生み出せるからといって、低クオリティな偽情報が大量にばら撒かれても、自分の信念が揺らぐ恐れはないと感じただろうか。しかし、論文によれば、スロバガンダの説得力は決して軽視できないという。
スロパガンダの恐ろしさは、人々の認知や記憶のメカニズムを巧みに突いてくる点にある。
人間の脳は大量の情報にさらされるとき、すべては精査できず、どうしても注意を引くものに引きずられてしまう。論文によれば、人間は感情を強く刺激する内容や脅威を示す情報、陰謀論めいた話に特に注意を奪われやすいことが示されているそうだ。
スロパガンダの実行者はまさにその弱点を利用するために、生成AIを使って人々の不安や怒りを煽るキーワードを散りばめた記事・画像を大量に生産し、次から次へと送り出すことで、私たちの注意力を過剰に消費させる。
そうやって注意力や判断力が落ちることで、重要な事実に関する情報がかき消されてしまうのである。
さらに厄介なのが、繰り返し効果による記憶への刷り込みだ。古くから「噓も100回言えば真実になる」と言われるが、心理学にも、人は何度も聞いた情報を真実だと感じやすくなる現象が知られている。
これは「真実性の錯覚(Illusion of Truth Effect)」と呼ばれ、たとえ虚偽でも繰り返し触れるうちに脳が親近感を持ち、疑いが薄れてしまうのである。
スロパガンダは、この効果を大規模に利用できる点で危険な存在だ。AIが生成したフェイクニュースや偽情報をあらゆる角度から繰り返し目にするうちに、人々は次第にそれを記憶に定着させ、「どこかで聞いた話=信頼できる情報」だと錯覚してしまうわけである。
特にスロパガンダの場合、生成AIによってターゲットごとにカスタマイズした内容を作り出せるため、人それぞれの先入観に合致した情報(たとえば特定の政治信条に沿う「都合の良い話」)や、不安を煽るネガティブな話題ばかりを届けることができる。
それによって受け手は「自分の考えを裏付ける証拠がこんなにある」と思い込み、ますます偏った世界観に閉じこもってしまう。