「チューリップ賞」とダイワスカーレットの偉業

 3月、春の彼岸が訪れるとJRAの3歳クラシックレースの幕開け「皐月賞」(中山競馬場で4月20日)が間近となり、いよいよ本格的な競馬シーズンが始まるぞ、と胸が高鳴るのはここ半世紀、変わることがありません。

「皐月賞」の1週前には牝馬3冠の第1弾「桜花賞」も開催されますが(阪神競馬場で4月13日)、近年は桜の開花が早くなっているので、日程的に桜吹雪、もしくは葉桜の下でのレースになるかもしれませんね。

 どちらにしても、この2つのレースから新世代のスターホースが誕生するので、比較的競馬歴の浅いファンのみなさんはぜひとも見逃さずにいてください。

 3月2日に行われた桜花賞の前哨戦「チューリップ賞」では、9番人気のクリノメイと7番人気のウォーターガーベラの穴馬2頭が1、2着を占め、高配当を演出しました。

 この「チューリップ賞」で思い出されるのが2007年のレースで、ダイワスカーレットとウオッカ、のちに名馬として知られる2頭の初対決となったレースです。ゴール前直線300メートルは2頭のマッチレースとなり、結果はウオッカが半馬身差で勝利しましたが、その後の2頭のライバル関係を見事に示唆する熱気あふれるレースでもありました。

 ウオッカとダイワスカーレットの2頭が生まれた2004年といえば、三連単(三連勝単式=1、2、3着の馬を着順通りに予想する馬券)の馬券が全国発売、また高知競馬のハルウララが武豊騎手騎乗で106連敗を記録したことが話題となりました。この年の4月4日にウオッカが、5月13日にダイワスカーレットが生まれています。

 今、パソコンでこの原稿を書いている机の横にはウオッカとダイワスカーレットの全成績を比較した一覧表が置いてあります。これを左右に並べて俯瞰すると、この2頭の名馬のレース人生がよく見えてきます。

 2頭の現役生活はウオッカの約3年4か月に対しダイワスカーレットは約2年1か月と短く、全成績はウオッカが26戦10勝、ダイワスカーレットが12戦8勝となっています。

 牝馬として64年ぶりにダービーを制覇したということでウオッカの存在が高く評価されて当然ですが、私としてはダイワスカーレットの肩を持ちたくなります。その理由は、ダイワスカーレットの安定したレースぶりにあります。

 全12戦8勝、2着4回。つまり、馬券でいう連対(2着以内に入ること)を外したことがなく、馬券ファンにとって最も信頼できる馬だったことです。

 生涯全レース連対した馬としては、G1レースが今ほど多くなかった時代に「五冠馬」の称号を与えられた、あのシンザン(牡、1961年生まれ)がいます。ダイワスカーレットはシンザンと並び称されてもおかしくない希代の牝馬、あるいは歴代最強牝馬と信じるファンの方も多いかもしれません。

 ダイワスカーレットが2着だったレースをチェックしてみると、先着されたのは2戦目の中京2歳ステークスでアドマイヤオーラ(2008年G2京都記念優勝馬)、9戦目の有馬記念でマツリダゴッホ(2007年有馬記念優勝馬)、そして前述のウオッカに2度だけ、ということは、生涯先着された牡馬は2頭だけというまさに男勝りの名牝でした。