そこで韓国政府周辺からは、「米国の原発企業ウェスチングハウスとの特許権紛争が原因になった」という推測も出ている。2022年10月、チェコ原発の受注をめぐって競争を繰り広げていたウェスチングハウスは、韓国水力原子力(韓水原)の「韓国型原発(APR1400)モデル」に自社の知的財産権が含まれているとし、米裁判所に特許侵害訴訟を提起した。
23年、米国裁判所は知的財産権問題は扱わず「ウェスチングハウスに訴訟権限がない」という理由で事件を却下させたが、ウェスチングハウスは直ちに控訴を準備し、この紛争が今年1月まで続いた。韓国をセンシティブ国に分類した12月~1月初めは、ウェスチングハウスとの紛争の真っ最中だった。
ただ、訴訟を率いていたウェスチングハウスのCEOが1月10日に退いた後、16日に韓水原とウェスチングハウスは劇的な合意で紛争を終息させた。
詳しい合意内容は知られていないが、欧州の原発建設はウェスチングハウスが主導し、中東への原発輸出は韓水原が主導することで地域を分け、事業に一部参加させるなど協力するという内容だといわれている。最近、韓国がオランダ原発の受注をあきらめたのも、これと関連があると韓国メディアは推測している。
原発輸出にブレーキがかかる可能性も
とにかくセンシティブ国指定が『ハンギョレ』や共に民主党の主張のように、米韓同盟を揺るがす重大な問題ではないとしても、韓国の原子力研究と輸出が影響を受けるという指摘も出ている。
米国企業の技術を基盤にした原発は、海外輸出時に米国に申告する過程を経るようになっているが、この過程がもう少し厳しくなるという展望が出ている。核燃料の濃縮や使用済み核燃料の再処理などの原子力技術関連の研究・開発にもブレーキがかかる可能性がある。
韓国は74年の米韓原子力協定締結後これまで、核原料の濃縮と再処理に対する米国の承認を受けていない。韓国の歴代政権では、米国との原子力協定の改正を通じて、日本レベルの権限(米国の承認がなくても核燃料としてのみ使用可能な濃度20%未満の低濃縮ウランを自国で生産できる)を確保するために努力してきたが、センシティブ国に指定されてしまえば、米国の承認を受けることをしばらく放棄しなければならなくなる。
韓国のセンシティブ国指定は4月15日から発効されるだけに、韓国政府としてはこれを阻止するためにあらゆる外交的努力を動員するとして国民を安心させようと躍起になっている。
ただ、大統領が弾劾され、首相が弾劾され、29人の閣僚が弾劾された韓国政府が外交力を発揮できるかだろうかという部分には懐疑を示す見方も多い。

2022年5月、バイデン大統領との初の首脳会談で米韓同盟を軍事安保同盟から経済技術同盟にまで拡大するとし、600兆ウォンにもおよぶ対米投資を約束した尹錫悦政権としては、最後の最後にバイデン氏から強烈な不意打ちを食らった格好なのは確かだ。