欧州などが米国を脱出する人材にラブコール

 今年1月の世界経済フォーラム(ダボス会議)では欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁が、トランプ米大統領に直接言及こそしなかったものの「何らかの理由で(米国に)幻滅するであろう一部の才能を、海の向こうから(欧州へ)輸入する時期なのかもしれない」と述べている。

 他方、英国ではトランプ氏の大統領就任を目前に控えた1月中旬、自由民主党のデイビー党首がスターマー首相に対し、トランプ大統領の圧政を逃れたい「裕福かつ高技能を有する米国人」を受け入れるためのビザを新設すべきだと訴えた。

やりたい放題のイーロン・マスク氏(写真:AP/アフロ)

 実際、トランプ氏が大統領選を制した昨年11月以来、英国籍を申請する米国人は急増している。内務省によれば、英国の市民権を取得しようと試みる米国人の2024年の申請者総数は6100人以上に上り、そのうち第4四半期だけで前の年と比べて4割増え、1700件に上ったという。これは、申請者数が記録され始めてから過去最多とされている。

 最近、英フィナンシャル・タイムズ紙の取材に応じた複数の移民専門の弁護士らは、トランプ氏の選出が大きな要因の一つだろうと指摘している。

 英タイムズ紙は今月初め、映画「ノッティングヒルの恋人」で知られるロンドンの高級住宅街で、今後米国の富裕層による住宅購入が殺到するだろうとする不動産業者の予測を報じている。主な顧客はハリウッドや、テック業界のエリート層だという。

 タイムズの記事執筆者の友人は、ノッティングヒルの家を借りたいという米国人から週2万5000ポンド(11日現在約478万円)の家賃を提示されたとしている。ある代理店は、現在少なくとも3割の顧客が米国人で占められており、これは過去最高だと話した。

 英国のほか、アイルランドやカナダ、スペインなどにも移住を試みる米国人が増加していると言われている。オーストラリアの作家は先月英ガーディアンに寄稿し、同国は看護師やエンジニア、医師や教師、またITや建設業の分野で深刻な人材不足に陥っており、今こそ優秀な人たちを確保すべきだとして、米国人に熱烈なラブコールを送っている。

 過疎化に悩むあるイタリアの村に至っては、大統領選直後の昨年11月、早々にトランプ氏から逃れたい米国人の呼び込み作戦を展開した。改修が必要な物件を1ユーロで売り出したり、リモートワークをしたいデジタル・ノマドに無償で住宅を貸し出したりするプロジェクトだ。

 この試みにはサイト開設直後、3万件の申請があったという。村長はこのプロジェクトで投資と雇用を生むのが目的だとしており、またどの国からも申請は可能だが、米国人が優先されるとしている。

 しかし、こうした米国人の大量流出の潮流が本格化すると、米国にとって深刻な安全保障上の問題さえ誘発する危険が指摘されている。