寿命の短い安普請
前回も触れましたが、いまの日本の法律では、木造建築は22年が法定耐用年数とされています。
これ、少し変な気がしませんか?
例えば「世界最古の木造建築」といえば奈良の法隆寺。創建は607年、一度、斑鳩時代に火災で全焼とも伝えられますが670年代頃に再建された建物が今も残っているので、1300年は優にもっている。
あるいは、東京大学で日常的に目にする「赤門」は、1827年の創建ですから今年198年目。
今現在、耐震補強工事を施す準備が進んでいますが、「耐用年数」「劣化で取り壊し」というような話にはなっていない。
それなのに、木造建物の耐容年数は22年?
いえ、実は同じ木材といっても材がちょっと違うのです。
樹木は若木の時代から、だんだん年輪を重ねて太くなっていきますが、そうなると構造を支えなければなりませんから、芯の方は硬くなり、多くの樹木では木の上の方まで水や養分を運ぶ導管や篩管などは、新しく太くなった、木の周辺部に集中する傾向が見られます。
そのような、みずみずしく柔らかい木の幹の周辺部を「辺材」、芯の方で硬くなった部分を「心材」と呼びます。
丸太の断面の写真をリンクしておきましょう。
同じ丸太でも、芯の方の「心材」は、フェノールなどの成分で目が詰まって赤っぽい色がついているので「赤太」と呼ばれ硬く、白アリなどにも強く、高価ですが耐用年数は長い。
これに対して「辺材」は色が薄いので「白太」と呼ばれるようです。
また幹の周辺からは枝が出ていますから、その部分を切り出すと材木に「節」が入ってしまいます。節の部分は何かとトラブルの元になるので、節のない材の方が値が高い傾向があるようです。
先ほど、ピアノやヴァイオリンなど楽器には「柾目」の材だけが用いられると書きましたが、楽器の表裏の板は柔らかな辺材を用いて豊かな響きを得るのに対し、指板やテールピースなどは硬い心材で余計な共振を防いでいる。
「黒檀」という樹木がよく知られますが、あれだって至る所が真っ黒なわけではありません。
リンクした写真で分かるように、心材が堅く黒くなっていて、ああいう強い材には白アリなどの歯が立たないわけです。
木造建築のデリケートな細部は別にしても、ヴァイオリンやチェロ、ピアノなど、楽器を構成するあらゆる部品が、木材の繊細な性質を生かして作られることは、イタリア・クレモナのストラディヴァリ記念ヴァイオリン製造学校(リューテリア)との共同プロジェクトで、驚くべき細部の知恵を教わりました。