高機動ロケット砲システム「HIMARS」を運用し最前線で戦うウクライナ軍・第27ロケット砲兵旅団を訪問したゼレンスキー大統領(資料写真、2024年12月12日、提供:Ukraine Presidency/ZUMA Press/アフロ)

(数多 久遠:小説家・軍事評論家、元幹部自衛官)

 トランプ大統領の出現により、ウクライナにとって厳しい状況が予想されています。しかし、良い情報もあります。それは、2022年の全面侵攻当初、ロシア側が圧倒的に有利であった電子戦分野では、ウクライナの優勢が明らかになりつつあることです。

 以下では、電波が目に見えない故に分かりにくい電子戦の状況を概括するとともに、今後の戦況に与える影響を考えてみたいと思います。

ロシアによる全面侵攻当初の状況

 2014年にロシアがクリミアに侵攻した際、ロシア軍は携帯を含めた無線通信を妨害していました。これによってウクライナ側は状況把握に支障を来たし、対応が遅れたことが、あまりにも容易にクリミアを占領された理由として指摘されています。

 この反省に基づいて各種対策が施されていたことから、2022年の全面侵攻が発生した後には、2014年ほどひどい状態にはなりませんでした。それでも、電子戦機器の質、量ともにロシア軍が圧倒的でした。

 多少なりとも幸いだったのは、ロシアが短期間で決着をつけることを意図し、部隊を急速に前進させた上、情報秘匿の観点から直前まで部隊に実戦であることを伏せていたことです。

 そのため、ウクライナ軍に対して無線通信妨害を行うと、自軍の指揮通信にも混乱が予想されたためか、これを避けるため、あまり強度の高い電子戦が行われなかったことが幸いしました。

 しかしながら、後方に控えていたクラスハ2、クラスハ4、ムルマンスク-BN、チラダ2S、レール3といった多種多様な電子戦機器が電子戦を展開し、それに対してウクライナ軍は有線による通信回線を急遽敷設したり、果てはバイクを利用した使送(文書を送ること)まで行って対応しています。