米国の金融機関による保有が促進される可能性

 米国では暗号資産に関する規制緩和の動きも進んでいる。

 トランプ大統領は、暗号資産関連企業に対する銀行サービス提供の制限を撤廃する方針を示した。この制限は「オペレーション・チョーク・ポイント」と呼ばれ、銀行が企業に対して口座開設や送金決済サービスを提供することを抑制するものであった。

 しかし、今年に入ってから、パウエルFRB議長もこの制限を設ける意向がないことを明言しており、金融機関による暗号資産市場への関与が促進される可能性が高い。

 また、SECは銀行の暗号資産保有コストを引き上げる要因となっていたSAB121(Staff Accounting Bulletin No. 121)を撤回した。これは、銀行が暗号資産を保有する際に、同額を負債として計上しなければならないという会計ルールであり、自己資本比率への影響を大きくすることで、銀行の暗号資産市場参入を阻害していた。

 SAB121の撤回により、銀行はバランスシート上で柔軟に暗号資産を扱えるようになり、カストディ業務をはじめとする金融機関主導の暗号資産関連ビジネスが拡大することが期待される。

 一方で、銀行による暗号資産の自己保有には、国際決済銀行(BIS)の規制が重くのしかかっている。BISは、銀行が保有する暗号資産に対し1250%のリスクウェイトを課している。これは、暗号資産の保有額の12.5倍をリスク加重資産として計上し、それに対して最低8%の自己資本を確保する必要があることを意味する。そのため、銀行は暗号資産を保有する場合、ほぼ同額の自己資本を積み増す必要があり、事実上、銀行の暗号資産保有を困難にしている。

 今後、米国とBISの間でどのような調整が図られるかが重要な焦点となる。BISはリスク評価の方針を定期的に見直しており、特定の暗号資産やステーブルコインに対するリスクウェイトの引き下げが議論される可能性がある。

 また、米国の銀行は、BIS規制の影響を回避するために、ETFやデリバティブの活用を強化するほか、暗号資産カストディ事業を提供しつつ自己保有は最小限に抑える戦略を採ることも考えられる。

 米国では、当局、銀行、暗号資産関連企業が歩み寄りを進めることで、暗号資産市場と伝統的金融市場の融合が進み、「デジタル資産」の新たな発展段階へと移行するだろう。特に、大手金融機関が暗号資産市場に参入することで、市場の厚みが増し、新たな投資機会が生まれることが見込まれる。

 一方で、トランプ大統領が推し進める暗号資産政策はBISなどの国際機関の規制方針にも影響を与えることが予想され、これから先、グローバルな枠組みの議論にまで進展するのかが注目される。