政党間での国防費の規模を巡る議論

 米国のトランプ大統領はこれまで、NATO加盟国がGDP比5%の国防費を捻出すべきと主張している。

 ドイツの連邦議会議員の中で、今後確保すべき国防費の規模を巡って、大きな変化が見られたのは「同盟90/緑の党(以下、緑の党と略称)」である。

 従来、反戦平和のイメージが強かった緑の党でも、ドイツは常続的にGDP比2%以上の国防費を支出しなければならないと考える議員が増加している。

 とりわけ、緑の党のロベルト・ハベック元党首は、軍事専門家の助言を踏まえ、米国に依存しすぎない安全保障構想の下、GDP比3.5%の国防費が必要と主張している。

 GDP比3.5%の国防費を要求している著名な連邦議会議員はほかにはいない。

 CDU/CSU、社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)といった中道の政党の議員の多くは、連邦軍の装備を近代化すべきであり、ドイツは将来的にはNATOの目標、少なくともGDP比2%を支出するべきと主張する点で一致している。

 CSUのマルクス・ゼーダー党首は明確にGDP比 3%を確保すべきと主張している。

 国防費がGDP比3%となれば、連邦軍の作戦能力は一段と向上する。

 実際、冷戦時代にはドイツはGDP比3%以上の国防費を支出していた。

 仮に現在のドイツがGDP比3%以上の国防費を支出することになれば、2022年の連邦軍特別基金の時のように、いわゆる政府の債務はGDP比0.35%未満に抑えるという債務ブレーキの原則を免除するため、日本で言えば憲法に相当する基本法を改正が不可欠である。

 ドイツは過去30年間、他の予算項目に比して国防費、治安関係費、教育訓練費、施設整備費は低水準であった。

 他方、中道政党のほとんどの議員は、社会、教育、気候変動対応などの分野の支出を抑えることは困難と認識している。

 ドイツの有識者の中には、インフラ、教育などの社会構造関連費を5年凍結してでも、国防費を優先すべきという向きもあるものの、他の分野や将来の世代を犠牲にすることなく、どうやって膨大な国防費の財源を捻出するのであろうか。

 ドイツの各政党は連邦軍を強化すると約束しているが、追加の何十億ユーロの財源をどこから確保するのであろうか。