2022年の連邦軍特別基金の設置

 ドイツが、現在のペースで毎年850億ユーロ(約14兆円)の国防費を支出すれば、GDP比2%となる。

 そうすれば、連邦軍が目標とする作戦能力到達まで残すところ10年との見積もりがある。

 その意味で、2022年に導入された1000億ユーロ(16兆円)の連邦軍特別基金は画期的な臨時財源であった。

 NATO集団防衛における核抑止・対処のために、核兵器を運用可能な戦闘機「トーネードー」の後継機種の「F-35」を調達し、この基金を活用して、「ユーロファイター」の電子戦/偵察用改良型は電子戦機能の一層の近代化を図っている。

 さらに、上空1万3500メートル上空から24時間以上、監視できる「ユーロ・ドローン」を装備することに加え、連邦軍における負傷者の救護のため、輸送ヘリコプターとして「チヌーク(CH-47)」の装備化を進めている。

 現在、この連邦軍特別基金は、既に使い道がほぼすべて決まっており、残額はなきに等しい状態である。

 ドイツ連邦軍はリトアニアに1個旅団を派遣し、リトアニアの防衛を支援しているが、ボリス・ピストリウス国防大臣は財政上の理由から、その装備の完全充足を中止せざるを得ない旨、言及している。

防衛産業からの国防費増額要求

 2024年9月、ドイツを代表する防衛産業の一つ、ラインメタル社のアーミン・パッペンガー最高経営責任者はベルリンの最高級のホテル・アドロンにおいて「議会の夕べ」という会合に招待された。

 パッペンガー氏は「14年前に現職を引き継いだ際は30億ユーロ(約5000億円)の契約額であったが、現在の契約額は520億ユーロ(約8兆円)に達している」と、自らの功績を淡々と述べた。

 そして、自社の最新の装備システムをプレゼンし、世界中から夥しい契約が発注されていることに感謝を述べつつ、同席している連邦議会議員に対し、次のように要望した。

「ラインメタル社は過去2年半、約700万ユーロ(約11億円)という大規模な投資を行った。しかし、我々が必要としているのは、皆さん方、政治の決断である」

「その決断とは国家予算の裏付けである。それがなければ、我々は連邦軍を助けることはできない」

「これまで、ドイツは毎年約80億ユーロ(約1.2兆円)をウクライナ支援に充当してきた。今後も最低限100億ユーロ(約1.6兆円)を認めてもらいたい」

 パッペンガー氏が要求しているのは、中期的には装備品へのさらなる国防費の充当である。

 パッペンガー氏は「連邦軍が合理的な定数を確保するためには、ドイツとして3500億~4000億ユーロ(約56兆~64兆円)の予算が必要である。1000億ユーロの特別基金が創設されたが、2500億~3000億ユーロ(約40兆~48兆円)が依然として不足している」と説明している。

 防衛産業が長きにわたり、将来を見据えて口約束を交わしてきたのが、CDU/CSUで首相候補のフリードリッヒ・メルツ氏である。