娘婿クシュナー氏も似た発想、どこまで本気?
ガザの人たちは今、どこに住みたいのでしょうか。
おそらく本当の願いは、度重なる中東戦争の結果、イスラエルに奪われた先祖の土地に戻ることです。それがすぐに実現しないのであれば、第二の故郷であるガザで暮らしたいと考えているはずです。
トランプ氏はガザの住民をパレスチナ以外の国・地域に移す構想を披露していますが、エジプトやヨルダンといった近隣国は受け入れを拒否しています。また、本人たちの意思に反して、ガザ住民に移動を強制すれば、国際法に違反します。
それでもガザの土地から住民を追い出そうとするのであれば、最悪の迫害行為です。国連のグテーレス事務総長は「民族浄化は絶対に避けなければならない」と強い表現でくぎを刺しました。
ただし、イスラエルのネタニヤフ首相だけはトランプ氏の提案を高く評価しています。
イスラエルは米国製の戦闘機や爆弾を使って、ガザを攻撃してきました。罪のない子どもや女性がどれだけ殺りくされても、米国はイスラエルへの軍事支援を止めませんでした。そうやってガザを徹底的に破壊した後で、都市開発・リゾート開発に乗り出そうというのです。
「究極の惨事便乗商法」「自分で放火し火事場泥棒するようなもの」といった批判もあながち的外れとは言えません。トランプ氏は「人々に生きる機会を与えたいだけ」と語っていますが、誰がその原因をつくったのかには触れませんでした。
米紙ニューヨーク・タイムズによると、トランプ氏とネタニヤフ首相が共同記者会見を開く直前まで、その会見でトランプ氏が「ガザ所有」に言及することを事前に知っていた者は米国・イスラエルの両政府にいなかったということです。また、国際社会での批判が高まった結果、トランプ氏自身が米軍派遣を否定。発言の本気度が疑われる状態にもなっています。
ただ、気になる動きもあります。
トランプ氏の娘婿クシュナー氏は2024年2月、ハーバード大学での討論会で、ガザ地区のウォーターフロントを「非常に価値ある潜在性を持っている」と評価しました。住民を全員移動させることが前提となっており、トランプ氏の提案と似ています。単なる思い付きとは思えません。
いったい、トランプ氏の真意はどこにあるのか。米大統領の言動には、これまで以上に注意を払っていく必要がありそうです。
フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。