DOGEが勝手に機密情報にアクセス? 

 USAIDの活動には、感染症対策や貧困没滅、難民支援など住民の生命に直結する事業も少なくありません。しかし、職員に対する休業の指示により、実際に活動が停止する例が世界各地で相次いでいます。

 ルビオ国務長官は、緊急性のある事業は継続する考えを示し、USAIDは国務省の一機関として存続させる可能性に言及しています。その場合でも、イランのように米国と外交関係のない国などでの活動には困難が予想され、活動の幅が狭まる恐れがあります。

マスク氏の政府関与に抗議する人(写真:ロイター/アフロ)

 一方、マスク氏が率いるDOGEの動きに対しては疑念が広がっています。

 政府効率化の「改革」の対象とされた組織はUSAIDだけではありません。DOGEは既存の「米国デジタル庁」を「米国DOGE庁」に改称し、大統領府の一角に陣取っています。政府機関の一つ「人事管理局(OPM)」にはDOGEのメンバーが送り込まれ、約200万人の連邦政府職員に対し、退職に応じれば9月までの給料は支払うというメールが送られました。

 財務省の関連ではスコット・ベッセント財務長官の承認を取り付け、社会保障給付や税金の払い戻しなどに使う決済システムにアクセスしました。こうした動きは、データをAI(人工知能)に分析させて政府効率化を進めるためではないかと考えられています。

 しかし、DOGEのメンバーは、機密情報へのアクセス権限の大前提となる「セキュリティ・クリアランス(適格性評価)」を受けていません。そんなDOGE メンバーが高度な機密情報に接することができていることに多くの米国民が衝撃を受けています。

「これはクーデターそのものだ」という声すら上がっています。

 合衆国憲法は重要な権限を持つ閣僚などの公務員は「上院の助言と承認を得て、大統領が任命する」と規定しています。マスク氏はじめDOGE のメンバーは議会の承認を得て改革を進めているわけではありません。前代未聞の急進的かつ大規模な政府組織の変革に対し、違法性を指摘する批判が拡大することが予想されます。

西村 卓也(にしむら・たくや)
フリーランス記者。札幌市出身。早稲田大学卒業後、北海道新聞社へ。首相官邸キャップ、米ワシントン支局長、論説主幹などを歴任し、2023年からフリー。日本外国特派員協会会員。ワシントンの日本関連リサーチセンター“Asia Policy Point”シニアフェロー。「日本のいま」を世界に紹介するニュース&コメンタリー「J Update」(英文)を更新中。

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「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。