同盟国に一部艦艇の新造・補修を“外注”する案を模索
この事態を改善するには、造船所の新設・拡張が一番だが、それには10年単位の歳月と莫大な建設費が必要だ。熟練労働者の大量確保も難しく、すぐには対応できない。
ちなみに、2023年の世界の造船力(船舶竣工量:UNCTAD/国際貿易開発会議調べ)を見ると、1位は中国で約3286万総トン、次いで2位韓国の約1832万総トン、3位は日本で約997万総トン。上位3カ国で世界市場(約6477万総トン)の実に7割近くを牛耳る寡占状態となっている。
肝心のアメリカは14位の約6万総トンに過ぎず、中国との差は実に500倍以上。中国海軍の艦艇数は、今年(2025年)400隻の大台に達すると推測されている。軍艦の数で中国は数年前にアメリカを抜き、世界トップの座につくが、アメリカが貧弱な造船能力の状態を放置すれば、中国との差は開く一方となる。

そこで米海軍は“切り札”として、造船余力と高い技術力を持つ同盟国の日韓に、一部艦艇の新造・補修を外注する案を模索するが、米造船業協会は「雇用と追加投資の意欲を奪う」と猛反対している。
実は、横須賀を母港とする第7艦隊の艦船は、日本国内での補修が認められるが、米本土やグアムが拠点の米海軍艦船は、国内での補修が法律で義務付けられている。
このため米海軍は、西太平洋に展開する軍艦を、わざわざ太平洋を越え米本土に帰還せずとも日韓の造船所で修理が受けられ、手間・ヒマ・コストを削減するための法律改正を目指しているようだ。
米海軍は簡単な補修の外注から始め、並行して米造船業協会の説得工作を展開。そして外注の中身をオーバーホールや近代化改修、軍艦建造へと徐々に間口を広げる戦術で臨むのではないだろうか。
それでも同協会が容認しない場合は、「軍艦建造が遅れ、アメリカが安全保障上の危機に陥れば、頑迷な協会側のせいとなる」と迫れば、同協会も妥協せざるを得ないだろう。前述した強気の軍艦新造計画は、同協会に外注を認めさせるための巧妙な仕掛けなのかもしれない。
