造船所の圧倒的少なさが軍艦量産の「アキレス腱」

 第2次トランプ政権の軍事戦略は、米海軍を強化しインド太平洋での制海権を盤石にしたうえで、外洋進出に挑む中国海軍を封じ込めることが主眼となる。インド太平洋が世界の全GDPの半数を占め、今後の世界経済における“成長センター”であることを強く意識したものでもある。

 国防次官として政権入りしたコルビー氏(国防総省ナンバー3)が提唱する「拒否戦略」をベースに、対中国の一点にアメリカの軍事力を集中するのが肝だ。

 アメリカの対中軍事戦略は「抑止」がこれまでの基本で、中国が「軍事力で挑戦しよう」と思うこと自体を心理的・戦略的圧力で断念させるのが狙いだった。「拒否戦略」は一歩踏み込み、実力をつけた中国が領海拡大など現状変更に動いた場合、圧倒的な軍事力で対峙し、物理的に無力化させる、という具合に中国軍の動きを直接「拒否」するのが特徴だ。

 インド太平洋地域でのアメリカの覇権を確固たるものにするため、欧州や対ロシア、中東に分散配分する米軍をインド太平洋に重点配備し、中国の進出阻止を最優先にする戦略である。

2025年1月、中国が一方的に自国海域だと主張する南シナ海で演習を行う米海軍の「アーレイ・バーク」級ミサイル駆逐艦と、カナダ海軍の「ハリファックス」級フリゲイト2025年1月、中国が一方的に自国海域だと主張する南シナ海で演習を行う米海軍の「アーレイ・バーク」級ミサイル駆逐艦(奥)と、カナダ海軍の「ハリファックス」級フリゲイト。トランプ政権が推進しつつある「拒否戦略」はすでに実行されている(写真:米海軍ウェブサイトより)

 だが、米海軍の艦艇増強計画は「国内の造船所が極端に不足している」というアキレス腱を抱える。意外に知られていないが、現在米国内にオイル/LNGタンカーやコンテナ船など、大型商船を新造する造船所はほぼ皆無に等しい。

 高い人件費や非効率な設備がたたり、半世紀以上前に国際競争力を失い、現在は「米海軍御用達」の軍艦建造に専念する造船所が大半である。

 造船施設も以下の数カ所に過ぎず、どこもフル稼働で軍艦量産の余裕はない。

●インガルス造船所(ミシシッピ州)/駆逐艦、揚陸艦
●ニューポート・ニューズ造船所(バージニア州)/唯一の原子力空母建造可能施設
●エレクトリック・ボート(コネチカット州)/原子力潜水艦
●バス鉄工所(メイン州)/駆逐艦
●フィンカンティエリ・マリネット・マリン(ウィスコンシン州)/伊系企業で沿海域戦闘艦(LCS)や「コンステレーション」級次期フリゲイト
●オースタルUSA(アラバマ州)/豪州系企業でLCS、輸送艦

 このため新造艦よりも、寿命で引退の艦艇の方が多くなり、どれだけ建造しても軍艦の絶対数が減り続けるという期間が当分続きそうな雲行きだ。苦肉の策として、老齢艦に寿命延長工事を施し、再び戦列に加えることで何とか軍艦の“頭数”を確保して急場をしのぐ作戦らしい。

バス鉄工所で進水式に臨む「アーレイバーク」級ミサイル駆逐艦の最新バージョンバス鉄工所で進水式に臨む「アーレイバーク」級ミサイル駆逐艦の最新バージョン。同艦は1980年代の設計でやや旧式だが、数多く量産されいまだに米海軍の主力戦闘艦で、改良を続けつついまだに建造されている(写真:バス鉄工所ウェブサイトより)