――ICTを活用するなどテクノロジーで視覚障害者の外出を助けるというニュースのほうが目立ちますね。
鈴木 自分ひとりで外出したい、他人と一緒に歩きたくないという人もいますし、相性や人間関係もあります。日程調整も必要ですから、自分だけの都合でパッと出られる気軽さを考えれば、テクノロジーに期待がかかりますよね。しかし、社会実装されるまでに時間がかかります。
――なぜ当事者は同行援護という支援につながりにくいのでしょうか。
鈴木 視覚障害者の中で障害者手帳の保持者は約30万人、その中で同行援護を利用しているのは2万人未満で1割ほどです。もちろん、必要としない人もいますが、当事業所の利用者の中にも「知らなかった」という人が多いです。手帳が交付されればさまざまな支援を受けられるようになり、たいていは支援や給付について掲載されている「障害者のしおり」という冊子を渡されるのですが、視覚障害者は読むことが難しい。忙しい役所の窓口で説明してもらうのも容易ではありませんから、まずはそこで埋もれてしまうと考えられます。
世の中は目から情報を受け取るのが当たり前としてできていますから、視覚障害者は情報を得ることがとても難しいのです。最近はパソコンやスマホを使いこなす当事者が増えましたが、ある程度予想の付く情報であれば調べたり検索したりできるけれど、知らないことや新しい情報については検索のしようがない。結局、当事者同士の情報交換や家族からの情報導入、たまたまメディアに接して知るというような偶然に頼るしかないわけです。それで、同行援護についても知らないままの当事者が多いのだと思います。
マッチングアプリで外出したい視覚障害者とガイドヘルパーをつなぐ
――同行援護を提供する側はどうでしょうか。
鈴木 同行援護の許認可を受けている事業所は約5000カ所ありますが、ほとんどが訪問介護などと並行して実施している事業所で、厚生労働省の平成25年度のデータによると同行援護に特化した事業所は0.2%です。実際には視覚障害者の受け入れをしていないところもあり、事業者数と実際のキャパシティは違います。
当事者が同行援護を受ける事業所を探す際に役所からリストをもらえるのですが、そこには100~200カ所も記載されています。当事業所の利用者さんで「上から順番に電話をかけたが、何10カ所も『うちではできません』と言われた」と話す方もおられて、そこで諦めてしまうケースもあるでしょう。自治体としては特定の事業者を示すことはできませんから、このプロセスで最初のミスマッチがあると思いました。
――そこで、当事者とガイドヘルパーをマッチングするアプリを開発されたわけですね。
鈴木 もう一点、重大なミスマッチがあります。多くの事業所では利用者から同行援護の依頼を受けると、コーディネーターが登録しているガイドヘルパーに一人ずつ確認を取っていきます。ガイドヘルパーの多くが常勤ではないので、都合を確認しなければなりませんし、さらに利用者との相性やリクエストに合う人を探さなければならない。その返事がすぐ返ってこないこともありますから、利用の申し込みから予約が確定するまで1週間近くかかることが多く、気軽に利用できないものになっています。
業界の人手不足も深刻なので、同行援護を利用したい当事者とガイドヘルパーが直接やり取りをすることでマッチングプロセスの効率が良くなれば、実際の利用までがスピーディに進むと考えて「ガイドヘルパーズ」というマッチングアプリを開発しました。コーディネーターなど間に入る人が少なくなることでコストが抑えられますから、ガイドヘルパーの報酬を上げることも可能になり、担い手の確保にもつながると考えています。
ガイドヘルパーは、同行援護従業者養成研修を受けることでその資格を取得できます。最近は働き方が大きく変化して、隙間時間で働きたい人も増えていますから、潜在的な人材は多いと思います。ガイドヘルパー側のアプリ登録者は増えているのですが、やはり当事者へ情報が届きにくいのでしょう、ご利用が少ないのが悩みです。当事業所でもアプリの利用状況は1~2割にとどまっています。
【ガイドヘルパーズ】https://guidehelpers.jp/