障害者がベター、ベストを選べる手段と場所をつくりたい

――他にコロナ禍の影響はありますか。

鈴木 いま使っている事業所がなくなる、視覚障害者向けの支援から撤退してしまうのでどうしたらいいかというお問い合わせが非常に増えており、コロナ禍の影響だろうと思います。私たちもマッチングアプリやガイドヘルパー養成研修事業を手がけ、同行援護事業のセーフティネットになれるようにしなければと考えています。

 視覚障害者向けのイベントも多くが中止されています。毎年11月には「サイトワールド」という展示会が開催されていて、白杖や拡大読書器など日常で使う用具や機器、AIなどを活用した最先端テクノロジーに触れられる重要な機会となっています。2020年からはコロナ禍のため3年連続で中止されていましたが、昨年ようやく再開されました。

 これまで、この「サイトワールド」以外でさまざまな機器やサービスに触れる機会は、ほとんどありませんでした。健常者の私たちは、必要な家電を買うときにはネットで下調べをしたり、店頭で比較したりして自分の生活や好みに合ったものを選んで購入しますよね。用具や機器は高額なのに、最新モデルの機能に何があるのか、違う機種は存在するのかというような情報が手に入りませんし、実際に使い心地を試すこともできない状況が続いていたのです。

 東京都内には実店舗の販売店が存在しないので、2022年8月にさまざまな機器や用具を手にとって、じっくり吟味できる「おとも用具店」を足立区梅島にオープンしました。据置型/携帯型の拡大読書器、読み上げ読書器、音声ICタグレコーダー、音声時計などを取りそろえ、店内でテーブルに座って、ゆっくりお試しいただけます。

「おとも用具店」の店内の様子(写真:筆者撮影)
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さまざまなサポート機器も揃っている(写真:筆者撮影)
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【おとも用具店】https://otomo-youguten.jp/

 用具や機器も、同行援護を受ける日時やガイドヘルパーさんも選択肢があって、そこから自分にとってベター、ベストを選びたいのは当たり前のことだと思うのです。その「当たり前」を実現するために、既存の支援や制度を使いやすくすることは重要だと思っています。

【鈴木貴達氏】
1983年生まれ。母子家庭で視覚に障害のある母親と弟と3人家庭で育つ。高校卒業後、20歳のときに起業。2017年4月から母親と同じ障害を持つ人が抱える課題を解決したいと決意して、未経験から異業種である同行援護事業に挑戦する。現在では、月に2,500時間以上の視覚障害者の外出支援(同行援護)を実施している。