ホビーがズレたらワークになって辛くなった
──編集部の働き方がもの凄い、特に82歳になる花田編集長の働き方が特に凄まじい、という印象を受けました。宮崎駿監督と花田編集長の働き方がどこか似ているという話もありました。
梶原:NHKがスタジオジブリのドキュメンタリーを放送した時に、宮崎駿監督が、延々と細かいところを直し続けている場面があって、「消しゴムがない」なんて言いながらうろうろしている姿は本当に花田さんそっくりで、花田さんもよく「俺の赤ペンがない」と言ってうろうろしていました。
赤ペンなんてどれでもいいと思うのですが、花田さんの中では「この作業はこのボールペン」「この作業はこのサインペン」と決まっていて、それがないだけで大騒ぎになる。「メガネがない」と言いながら頭の上にメガネを載せている。あの世代の現役最前線の人は皆ああいう感じなのだろうと重なって見えました。
花田さんは82歳になりましたが、「自分が一番編集部で働いている」と言っています。本当にそうかもしれません。載ってないものも含めて、雑誌の記事は全部チェックしていますし、週に3回動画番組をやり、週刊連載と月刊連載を抱え、帰宅すると自分の趣味の本を読んでいる。今『大菩薩峠』を読んでいるそうです。
──古い文学作品を好んで読まれると書かれていました。

梶原:新聞も5紙読んで、週刊誌も数冊読んで、趣味の歌舞伎も見に行っている。超人的です。
私が体調を崩して『Hanada』を出している飛鳥新社の土井尚久社長に、仕事を辞めることを報告しに行った時に、「疲労困憊です」と言ったら、土井社長が「そうだろうね。花田さんにとって仕事はホビーだけど、君たちにとってはワークだから」「ワークの人が、ホビーの人に着いていくのは無理だよ」と言われました。私も、雑誌と自分の感覚が一致していた頃はホビーでしたが、ズレたらワークになってしまった。
「俺は毎日ゴルフに行っても楽しくて、花田さんにとっての雑誌づくりは俺のゴルフと同じだから」と土井社長が言い、後日その土井社長の言葉を花田さんに伝えたら、花田さんがすごい喜んじゃって(笑)。私は「部下はワークなんだ」と理解してほしくて言ったのに、花田さんは「そうなんだよ。俺のはホビーだから」と言って楽しそうでした。
梶原麻衣子(かじわら・まいこ)
編集者・ライター
1980年埼玉県生まれ。埼玉県立坂戸高校、中央大学文学部史学科東洋史学専攻卒業。IT企業勤務後、月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経て現在はフリーの編集者・ライター。紙・ウェブ媒体を問わず、インタビュー記事などの取材・執筆のほか、書籍の企画・編集・構成(ブックライティング)などを手掛ける。
Xアカウント:@maiko_universe
長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。