増え続ける「地方暮らし」希望者
関係人口を増やそうという試みには、多くの自治体や関係団体も強い関心を示しているようです。2024年10月に立ち上がった「全国二地域居住等促進・官民連携プラットフォーム」(事務局・栃木県那須町)には、すでに地方公共団体が730団体、地域新興などを手掛ける非営利法人や企業、団体が249団体加盟。JR西日本が沿線自治体と進める共同プロジェクト「おためし地方暮らし」などの実践例も紹介されています。
関係人口の増加は、日常の延長線上にだけ存在するのではありません。
政府の「新しい地方創生策を議論する有識者会議」の委員で、地方の農水産物の直売システムを運営する雨風太陽(岩手県花巻市)代表取締役の高橋博之氏は、同会議の会合で「関係人口が一番生まれるのは災害時」と言及。東日本大震災の際も、東北と縁もゆかりもない人々が被災者支援で東北に押し寄せ、さまざまな化学反応が起きて定住する人も出てきたと指摘しています。
極めて困難な状況であっても、創意工夫や新たな出会いがあれば、地域の衰退を食い止めることは可能という趣旨での発言です。
関係人口の増加に焦点を当てる政策は、人口減少社会では理にかなっているかもしれません。これまでの地域振興策は移住者の定住と地域人口の増加を上位の目標としていましたが、人口減少と高齢化が急速に進むなか、日本全体で「移住者の増加」を掲げることは現実的ではないからです。高橋氏も2024年11月に開かれた有識者会議の初回会合で、関係人口をひと桁増やす施策を政府が責任を持って実行してほしいと要望しました。
地方移住者への支援を手掛ける認定NPO法人ふるさと回帰支援センターによると、2023年の移住相談件数は約5万9000件に達しました。前年より13.3%も増え、過去最多を3年連続で更新しました。地方暮らしに関心を持つ人は減る気配がありません。
関係人口の増加や二地域居住の推進は、そうした流れのなかで今後、ますます注目されていくはずです。
フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。