策略で白川藩へ養子に出された田安賢丸
今回の『べらぼう』は、蔦屋重三郎を中心とした吉原パートと、田沼意次(たぬま・おきつぐ)を中心とした幕府パートが時に交わりながらも、並行して進んでいく。何やら不穏な幕府パートは、理解しにくかったかもしれない。背景も含めて解説していこう。
田沼意次のもとには、原田泰造演じる田沼家の用人・三浦庄司が訪れていた。なんでも、陸奥白河藩主の松平家から「田安の賢丸(まさまる)様を養子にほしい」とせがまれて困っているらしい。
以前、断ったにもかかわらず再度打診があったことに、意次の息子・意知(おきとも)が「なにゆえ白河様はこれほどまでに賢丸様を?」と聞くと、庄司はこう説明した。
「吉宗公に近いお血筋の婿をもらって、とにかく家格を上げたいんでしょうな」
陸奥白河藩主の松平家は、御三卿(田安家・一橋家・清水家)から養子を迎えて家格上昇を望んでいたらしい。賢丸は、田安徳川家の初代当主である徳川宗武の七男で、8代将軍・吉宗の孫に当たる。
ドラマでは、意次が将軍の家治をうまく言いくるめて、将軍から命じるかたちで、この養子組を成立させようとする様子が描かれた。
しかし、田安家からすれば、当主の治察(はるあき)にはまだ跡継ぎがいない。それゆえにドラマでは、寺田心演じる賢丸が「返事は兄上が跡継ぎを得てから、とは参りませぬか。私が家を出てしまっては、まさかの折に田安を継ぐ者がいなくなってしまう」と兄である治察に提案する場面もあった。
それに対して入江甚儀演じる治察は「そこは私も案じた。まさかの折は、そなたを呼び戻してよいとの言葉を上様から直々にいただいて参った」と条件付きの養子入りだと告げている。