『一目千本』のユニークな内容をストーリーに組み込む
しかし、『細見嗚呼御江戸』で吉原細見の編集に携わった重三郎だったが、その後に自身で最初に出した出版物は吉原細見ではない。安永3(1774)年に刊行した遊女評判記『一目千本(ひとめせんぼん)』が、重三郎が初めて独自に編集・出版した本となる。
『一目千本』は「各店の上級遊女である花魁(おいらん)の名を、実際にある花に見立てながら紹介する」というユニークな企画で、絵を担当したのは人気絵師の北尾重政(きたお・しげまさ)である。

今回の放送では、重三郎が数ある絵師から北尾重政を選び、約120人もの女郎を描いてほしいと依頼。「この数の女郎を描き分けできるのは、とにかく絵が確かな北尾先生しかいねえんですよ」と、きちんと人選の理由を明かして、相手にやる気を出させているあたりは、出版人としての才覚を感じさせた。
橋本淳演じる北尾重政は「見込んでくれたのはうれしいけど」と言いながらも、ハードルの高さをこう説明した。
「墨摺りで人を描くとねえ、1枚絵ならまだしも、本にすると似たような絵が延々続くことになるよ。あんまし面白くねえんじゃないかな」
それでも諦めきれない重三郎に、重政は「……見立てるとか?」とアドバイス。重三郎が「あ、花に見立てるっていうのはどうです?」と思いつき、出版物の方向性が決まった。
当時、流行していた挿花をモチーフにするにするという『一目千本』の特徴を、うまくストーリーの展開に組み込んだといえるだろう。
