江戸時代に盛んだった木版印刷のプロセスを描写

 また、『一目千本』は吉原細見に比べて遊女の網羅性が低く、花に見立てたことで読み物としては面白くなったが、実際の遊女を選ぶ際の実用性という点では劣る。書店で売られた形跡もないため、『一目千本』は掲載を希望する遊女から出資を募った上で作られた、非売品の「入銀本(にゅうぎんぼん)」だと考えられている。

 ドラマでは、重三郎が東奔西走して制作費を集める場面があった。小芝風花演じる花魁の花の井が、中村隼人演じる長谷川平蔵から資金を引き出して、前回と同じく重三郎をサポート。無事に制作費が集まると、本の製作に着手することになり、江戸時代に盛んだった木版印刷のプロセスが描写された。

 まずは、絵師が下絵を描くと、彫師が板木を裏返しに貼って下絵ごと彫り、さらに「摺師(すりし)」と呼ばれる職人が板木の上に墨を塗って、その上に紙を置いて摺っていく。そして最後に製本作業として、紙を折り重ねて、下とじした紙を切りそろえてから、表紙をかけて糸でとじる──という流れになる。

 重三郎が「なんかすげえ楽しかったなあ。やることは山のようにあって、寝る間もねえくらいだったけど、てえへんなのに楽しいだけって。そんな楽しいことが世の中にあって。俺の人生にあったんだって。なんか夢ん中にいるみてえだ」と感想を漏らしたが、この工程をやりきれば、さぞ達成感があることだろう。

 実際の重三郎も手応えがあったらしい。『一目千本』の翌年に吉原細見の出版に参入している。

 ここから重三郎が吉原細見のシェアをどのように独占していくのか。ドラマの終盤では、不敵な笑みを浮かべた片岡愛之助演じる鱗形屋孫兵衛との関係性の変化にも注目である。

遊郭の案内書「吉原細見」の復刻版遊郭の案内書「吉原細見」の復刻版(写真:共同通信社)