職場との「不当な支配従属関係」から逃れられるメリット
一方で、働き手にとっては退職代行サービスを利用する決定的なメリットがあります。それは、職場との間に不当な支配従属関係が構築されてしまっている場合であっても退職して逃れられることです。
退職代行事業者が、実際に退職意思を伝達しているやりとりをアップしている動画を見ると、中には「ふざけるな!」などと声を荒らげて罵倒する職場側の担当者もいることがうかがえます。
このような対応をする担当者からは、日ごろから社員を恫喝したりして支配従属関係を構築し、社員が辞めないように圧力をかけている様が容易に想像できるというものです。そして皮肉なことに、退職代行を利用した働き手側の判断が正しいことを自らの振る舞いをもって証明してしまっています。
職場との間に支配従属関係があると、恐怖心も相まって退職を言いづらい状況に追い込まれがちですが、「いざとなれば退職代行サービスを利用して辞めればいい」という選択肢があると心強いものです。
職場との関係性において厳しくつらい立場にある働き手にとって、時には命を救うほどの存在意義を持つことになります。そのような状況で退職代行を利用したとしても、甘えだ、逃げだ、無責任だなどと非難される筋合いはないはずです。
それに対し、職場側からすると基本的に退職代行サービスを利用されることにメリットは見いだせません。「退職代行? そんなものは認めない!」などとゴネたとしても、働き手が職場に来ず、退職意思も変わらなければ事業運営に支障が出て困るのは職場側です。
職場には職場の言い分もあるとは思いますが、結果として仕事には穴が開き、職場環境は改善されずデメリットだけが残ることになります。あえて退職代行を利用される職場側にとってのメリットを挙げるとしたら、早く辞めて欲しいと願っていた社員が利用して自ら辞めてくれた時くらいではないでしょうか。
総じて退職代行は、利用する側もされる側も圧倒的にデメリットの多いサービスです。一方で退職代行サービスの存在自体は、職場より弱い立場にある働き手にとっては、決定的なメリットも有しています。ただ、いずれにせよ退職代行は利用しない、されない、で済むに越したことはないサービスだと言えるのではないでしょうか。
【川上 敬太郎(かわかみ・けいたろう)】
ワークスタイル研究家。男女の双子を含む、2男2女4児の父で兼業主夫。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ約5万人の声を調査・分析したレポートは300本を超える。NHK「あさイチ」、テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」等メディアへの出演、寄稿、コメント多数。現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。