会社が社員との“つながり”を重視するようになった背景
リファラル(紹介・推薦)採用やカムバック(復帰)制度、アルムナイ(退職者)制度などを導入する会社を目にすることが増えています。アクセンチュアのような外資系コンサルティング会社から、富士通などのメーカー、外食チェーンのすかいらーくなど業種もさまざまです。
これらの取り組みに共通しているのは、在職している場合はもちろん、退職した後でも社員との“つながり”を大切にするスタンスです。
これまでは社外との接点を広げることには消極的で、社員を専有資産と見なして囲い込む一方、退職した社員を陰で「裏切り者!」などと呼んで二度と敷居をまたがせないなど、鎖国姿勢の会社は少なくありませんでした。
それがいま、開国へと向かう機運が高まってきています。会社が社員とのつながりを重視するようになってきた背景にはどのような事情があり、つながりにはどのような価値が秘められているのでしょうか。
経営資源の三大要素とされるヒト・モノ・カネの筆頭に挙げられているように、かねて人材は会社経営に欠かせない存在として認識されてきました。また、経済産業省が開催した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」の報告書、いわゆる人材版伊藤レポートが発表されたことなどを機に、人材の価値を最大限に引き出して中長期的な企業価値向上へとつなげる人的資本経営が注目されるようにもなっています。
その一方、職種や業界によって差はあるものの、雇用労働を取り巻く環境は総じて売り手市場の色合いが濃くなっています。
有効求人倍率は1倍を超えて推移し、求職者の数を求人数が上回る状態です。いま引く手あまたのAIエンジニアのように特殊な技能を持っている人材をはじめ、会社としては長く在籍してほしい優秀な人材ほど、転職して会社から去る可能性も高くなっています。かといって、売り手市場では新たに採用するのも大変です。
さらには、そんな状況に追い打ちをかけるように、テレビをつければ連日いくつも転職サービスのCMが目に飛び込んできます。その気はなかった社員でも、「登録くらいはしておこうかな」と思ってしまいそうです。人材が離れていきやすく、採用が難しい状況は、会社にとって悩ましいに違いありません。