トランプ氏に逆らえないネタニヤフ氏

 イスラエル側にも、米国主導の停戦案を無視できない事情が生じていました。

 米国内では、イスラエルのガザ攻撃に反対するデモが各地の大学を中心に全米に広がり、バイデン政権への不満が大統領選に影響しかねない状況にもなっていたのです。トランプ氏の当選が決まった後も、バイデン氏は停戦に向けてイスラエルへの圧力を強め、自らの政権のレガシー(政治的遺産)作りを狙って任期満了ギリギリまで交渉に力を入れていました。

イスラエルのネタニヤフ首相は2024年7月に訪米し、大統領選挙中のトランプ氏の私邸で会談した(提供:Amos Ben Gershom/Israel Gpo/ZUMA Press/アフロ)

 そこに次期大統領に決まったトランプ氏の動きが重なります。

 トランプ氏は大統領選で中東情勢を打開できないバイデン氏を批判し、自分ならすぐに解決できると繰り返していました。そして、次期大統領に当選したことで自らの主張の正しさを行動で示さなければならない立場に置かれたのです。

 トランプ氏は、大統領就任式が行われる2025年1月20日までに人質を解放しないと「地獄を見るぞ」とハマス、イスラエル双方に強く圧力をかけ、停戦案の受け入れを迫りました。同時に、2期目の政権の中東担当特使に指名したウィトコフ氏を中東に派遣。ウィトコフ氏は、バイデン政権の中東担当官マクガーク氏と連携してイスラエルに停戦受け入れを迫りました。

 互いを激しく非難してきた米国の政敵同士が結束して中東問題に当たるという異例の構図が実現したのです。バイデン氏がトランプ氏への政権移行をスムーズに進めてきたことも協力を容易にしました。大統領1期目にイスラエル寄りの政策を取った「恩人」とも言えるトランプ氏からの圧力に、イスラエルのネタニヤフ首相も抗することはできませんでした。