国内の反米世論が高まれば、それに押されて軍部も台湾侵攻は無理とばかり言っていられなくなる。全力で侵攻するかどうかは別にして、とにかく米国と戦うポーズだけでも見せなければならない。

 その状況は戦前の日本に瓜二つだ。旧日本海軍は米国の実力をよく知っていた。だから米国と戦いたくなった。しかし大陸進出を巡って日本と米国が対立し世論が激昂する中で、海軍は米国と戦わざるを得なくなった。

 長年米国を仮想敵として多額の予算を獲得してきた海軍は、1941(昭和16)年の夏に米国と戦うことができないと公言することができなくなっていた。そんなことを言えば海軍の名声は地に落ち、今後予算を獲得できなくなる。負けると分かっている戦いに海軍が踏み出した真の理由である。

 現在の中国軍の状況もそれによく似ている。世論が親米的である間、軍は習近平から台湾に侵攻しろと言われても拒否することができた。しかし不況下において世論が反米的になれば話は変わる。中国軍も旧日本海軍と同様に長年、台湾侵攻の準備に莫大な予算を使ってきた。それなのにトランプから散々な仕打ちを受けても、戦えば負けるから戦いたくないとは言い出せない。

 トランプは米国内の政治状況があるから、中国に対する強硬手段を緩めるわけにはいかない。それは4期目を目指す習近平にとって悪い話ではない。

 老婆心ながら付言すれば、習近平の真の目的は中国を偉大な国にすることではない。自身が死ぬまで中国共産党のトップに居座ることだ。現在習近平は静観を決め込んでいるが、第二次トランプ政権の出現をチャンスに変えようと虎視眈々と狙っている。