TSMCを破壊せよ

 第2次トランプ政権の米国防政策担当次官候補のエルブリッジ・コルビー(Elbridge Colby)氏は、中国が侵攻してきた場合、台湾の半導体工場を破壊することを支持しているという(Tom's Hardware、2024年12月27日)。

 この記事で、コルビー氏は、「TSMCの破壊は台湾政府や軍に任せるべきではないと主張している」という。台湾政府や(台湾)軍に任せないとしたら、TSMCを破壊するのは、TSMC自身(自爆)か米軍ということになる。

 また、2022年1月6日付のデータセンター・ダイナミクスによれば、「米国の軍事学者らは、抑止力として、台湾は中国による侵攻があった場合には『焦土作戦』を採用し、自国の半導体工場を壊滅させるべきだと提言」しており、「米国と台湾は、侵攻された場合に台湾の半導体工場を破壊するという『正当かつ信頼性の高い脅しによる懲罰的抑止アプローチ』を構築することで、中国による台湾侵攻を抑止できる可能性がある」と主張しているという。

 このように、中国が台湾に侵攻して、成熟プロセスも、先端プロセスも、独占してしまうのなら「TSMCを破壊するべきだ」ということが2年も前から大真面目に議論されている。そして、第2次トランプ政権で、「TSMC破壊」を支持するコルビー氏が米国防政策担当次官候補になっている。

 世界では、ロシアによるウクライナ侵攻とパレスチナ自治区ガザをめぐる戦闘が長期化している。このような事態を鑑みれば、「台湾有事なんか、起きっこない」と安穏としていることができるだろうか?

 2025年は一体、どのような1年になるのだろうか? 筆者としては、「TSMCを破壊する」などという物騒なことが起きてほしくないと願いたい。

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