環球時報「世界唯一の超大国が国際法を無視する危険な前例となる」
トランプ氏は外交も国防・安全保障も不動産取引と同じように損得勘定で判断する。まず7734億ドル(2023年)まで膨れ上がった世界最大の貿易赤字を減らしたい。貿易赤字に占める相手国の割合は中国36%、メキシコ20%、ベトナム14%、ドイツ11%、日本、カナダ各9%の順だ。
次に36兆1700億ドルまで膨張した政府債務を減らす必要がある。関税引き上げや同盟関係を取引材料に米国にとって良い条件を引き出そうとするトランプ流交渉術は第1次政権で米国の同盟国や友好国は経験済みだ。トランプ氏を批判して真っ向から対立するのは賢明ではない。
第1次トランプ政権の18~20年、米国の駐EU(欧州連合)大使を務めたゴードン・ソンドランド氏は英BBC放送の報道番組「ニューズナイト」で「トランプ氏はグリーンランドとパナマ運河の両方を米国の重要な国益と見ている」と解説した。
「もし中国やロシアなど敵対的なアクターが干渉し、グリーンランドとパナマ運河における米国の国益を損ねようとするならば米国は軍事行動という選択肢も排除しないということだ」とソンドランド氏はトランプ氏の本意を代弁した。
中国共産党機関紙、人民日報系の国際版、環球時報(8日付電子版)は「米国の新政権が軍事的・経済的アプローチでグリーンランド、パナマ運河、カナダを併合しようとすれば、世界唯一の超大国が国際法や規範を無視する危険な前例となるだろう」との識者の見方を伝えた。
【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。