パーソナルモビリティを「ミニカー」にシフトさせる方策

 果たしてその自動車製造の環境負荷を減らす妙案はあるのだろうか。クルマに乗らないで済むよう1カ所に人を集める、カーシェアを増やすといったことをやらずとも、実は簡単に打てる対策が少なくとも2つある。

 第1はクルマのダウンサイジング。同じクラスの旧型より10%軽量というレベルではなく、重量級モデルから1トン前後の小型車や日本における軽自動車に相当するミニカーにパーソナルモビリティをシフトさせるのだ。

 小型車は全般的に環境負荷の面で大型車より格段に有利だが、コスト吸収の余力が大きい大型車や高級車の場合、先進技術をふんだんに投入すれば走行時の環境負荷は小型車並みに落とせる。欧州の猫もしゃくしもPHEV(プラグインハイブリッド)というムーブメントはそういうエクスキューズから生まれている。

 だが、製造時の環境負荷を問題とするならば小型軽量なクルマが絶対的に優位。これは物理の問題であって、技術で乗り越える性質のものではない。ハイブリッドだろうがBEVだろうが、小型軽量である方が環境負荷は小さいと決まっているのだ。

 筆者は2022年にスズキの軽自動車「アルト」で東京~鹿児島間を3600km周遊したことがある。ごく小規模なマイルドハイブリッドを備えたパワートレインのエコぶりは壮絶なもので、クルマのクセがつかめてくると郊外路を普通に長距離移動していて燃費は30km/リットル超、燃費に気を配って走った福井県の小浜から関ヶ原経由で愛知県の西尾に達した約200km区間では実測でわずかながら40km/リットルを超えた。

スズキ「アルト」スズキ「アルト」(筆者撮影)

 走行時のCO2排出量の少なさも立派だが、CFPベースでみる場合、製造時換算CO2排出量がトヨタ「RAV4」や日産自動車「エクストレイル」などCセグメントハイブリッドSUVの半分程度ということがダブルで効いてくる。

 クルマのカーボンニュートラルというのは何も完全ゼロカーボンを指すのではなく、ライフサイクルでのCO2排出量を現在の半分に落とすというもの。コンパクトSUVからアルトに乗り換えるだけでそれが達成できてしまうのだ。

 これは極論のひとつではあるが、世界が本当に温室効果ガス削減をやるつもりであるのなら、今すぐにこのくらいのことをやらなければ話にならない。2025年に欧州で始まるBEVのバッテリーのCFPカウントが単なる非関税障壁目的であるのか、それとも気候変動対策をやる気になっているのか。CFPの適用をクルマ全体に迅速に広げるか否かでその本心が分かるだろう。

 現在ヨーロッパの自動車マーケットでは環境対策を声高に叫ぶわりに、大きく、重く、空力性能もセダンやハッチバック車に劣るクロスオーバーの花盛りだ。メーカーとしてはその方が利益を簡単に積み増せるのだろうが、CFPを徹底させる場合、そのおいしいところを手放さざるを得なくなる。それが本当にできるのかどうか興味深い。

 もしCFPによるライフサイクルでの温室効果ガス低減への取り組みが本気で、大型車に対して抜け道なしに懲罰的重課税が行われるようなことになった場合、自動車マーケットの様相は一変するだろう。大きく、重く、豪華というクルマの付加価値の付け方ができなくなり、メルセデスベンツだろうがスズキだろうが同じ土俵で戦うという構図が生まれる。

 世界的に法的拘束力のある規制がかけられた場合は日本でも同じようなもので、大型高級車の存在が難しくなる。そうなると高付加価値モデルで潤っているメーカーが急速に競争力を失うという事態も起こり得よう。