古いクルマをむしろ税制優遇の対象にすべき理由
製造時の環境負荷を低減するもうひとつの策はズバリ、今すでに道路を走っているクルマをできるだけ長く、大切に使うことだ。
仮に車両製造時の換算CO2排出量20トン、燃費20km/リットルのSUVとちょっと古い燃費15km/リットルのSUVがあったとしよう。古い方はすでに製造された後なので、現時点をスタートラインとするなら製造時換算CO2排出量はゼロである。果たして古いSUVを新しいSUVに入れ換えたとして、どのくらい走ればペイバックとなるのか。
ガソリン1リットルを燃焼させた時のCO2排出量は2.36kgなので、燃費で割るとそれぞれの1kmあたりの走行時CO2排出量を割り出せる。両者の差は約39.3g/kmだ。「20トン÷39.3g/km≒50万8905km」、ちょっと信じがたい数字だが、これが現実なのだ。
では、古いSUVの燃費が現在の基準でみれば劣悪な10km/リットルだったらどうか。それでも20km/リットルのSUVが10万マイル、すなわち16万km走ってもまだペイバックに届かないのだ。
もちろんクルマはいつか必ず壊れて使えなくなる乗り物であるし、排出ガス中の有害成分はCO2だけではないので、性能を向上させた新しいクルマを製造する意義は大いにある。だが、CFPで温室効果ガスを考える場合、古いクルマをわざわざ新しいクルマに更新させるのはばかげているということになる。
日本では現在、一部のモデルを除きガソリン車の場合で新車登録から13年経過すると税金が高くなる。より環境性能の高いクルマに誘導するためだが、製造時の温室効果ガス排出を抑制するという観点でみれば、その制度は即刻廃止するのが最も合理的だ。それどころかクルマの平均的な生涯走行距離を考慮すると、古いクルマはむしろ税制優遇の対象にすべきとすら言える。
環境を旗印としつつも利益はなるべく増やしたいという自動車メーカーにとって、CFPはまさに鬼門と言える。為政者にとっても手を間違えると経済をつぶすことにもなりかねない両刃の剣だ。
気候変動は人為的温室効果ガスの排出が原因という科学者のコンセンサスを支持している国連や世界各国政府がこれをどう扱うのか、それともいつの間にかなかったことにするのか、大いに見モノの1年となろう。
【井元康一郎(いもと・こういちろう)】
1967年鹿児島生まれ。立教大学卒業後、経済誌記者を経て独立。自然科学、宇宙航空、自動車、エネルギー、重工業、映画、楽器、音楽などの分野を取材するジャーナリスト。著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。