1ドル170円定着シナリオが現実化する条件
後述するように、米国の中立金利水準は現状、過小評価されている可能性があり、「穏当なリスクシナリオ」ないし「極端なリスクシナリオ」として、タカ派色が強まる可能性を警戒する地合いにある。
日銀に関しては「賃金・物価の好循環」という(日銀からすれば)真っ当な理屈で利上げできるのは、中立金利に近いと目される1%が上限ではないかと予想している。
むしろ「穏当なリスクシナリオ」に挙げているように、年央に控える国政選挙に配慮して結局は利上げが見送られ、政策金利が0.25%のままという可能性にも留意したい。
堅調な米国経済の状況を踏まえれば、「極端なリスクシナリオ」として、通貨防衛的に複数回の利上げを強いられる可能性も視野に入れたいところだ。そのような状況になれば、ドル/円相場も160円台後半や170円到達が視野に入っても不思議ではない。
需給に関しては、原油価格が前年比で▲10%以上下落することを前提に、輸入減少を主軸として貿易収支赤字が縮小する展開がメインシナリオとなる。
この点は円安抑止の心強い材料ではあるが、第二次トランプ政権が展開する保護主義政策や精彩を欠く中国経済など、輸出を抑制する材料もそれなりに多い。
しかも、予見される旅行収支黒字の頭打ちを踏まえれば、経常収支全体の仕上がりが大きく2024年と変わるとは考えられない。せいぜいキャッシュフロー(CF)ベースでみれば、均衡からやや黒字といったところだろう。
一方、金融収支上で注目される「家計の円売り」については、月間1兆円規模で持続していた投資信託経由の対外証券投資は鈍化すれども、相応の規模が続くと考えている。
そのほか、金融収支においては直接投資が耳目を引きやすいが、対外フローは旺盛、対内フローは低迷という構図も恐らく簡単には変わらないだろう。結局、日本全体で見れば、「円を売りたい人の方が多い」という現実は2025年も健在である。
この見通しを覆すことがあるとすれば、原油価格が急落したり、昨年9月以降に見られている「家計の円売り」ペースの鈍化が恒常化したりする展開だが、メインシナリオにするほどの合理的な理由は今のところ見出しづらい。