米国に急接近する頼清徳

  例えば頼清徳は11月末から12月2日までの1週間、友好国の南太平洋島嶼国、マーシャル諸島、ツバル、パラオを歴訪したのだが、その時に米国領のハワイ、グアムに立ち寄った。台湾がこれまでよく使ってきた一種のトランジット外交だ。

米国に急接近する台湾の頼清徳総統(写真:中央通信社=共同通信社)

 この頼清徳の外交のさじ加減は絶妙で、ハワイ、グアムは米国本土ではなく、南米の友好国の時の米国本土のトランジット外交よりは中国への刺激が少ないと、国際社会に思わせるものだ。だが、米大統領選が終わって1カ月もしないタイミングで、中国が影響力とグレーゾーンの侵略を強めている南太平洋の米国の軍事前線基地があるハワイ、グアムに立ち寄るということで、台湾の米国の軍事協力関係強化を望む意向をほのめかすものでもあった。

 頼清徳はハワイで「中国は台湾が直面する最大の挑戦」と表明し、「戦争に勝者はいない」として国際社会に衝突防止のために協力するよう呼び掛けた。中国の南太平洋浸透を台湾は米国サイドに立って防ごうとしているという、立ち位置を明確にした。頼清徳はペロシ元下院議長と電話で討論し「中国の台湾に対する軍事的脅威」について語り、ハワイ州自治や国会議員とも面会したことは、かなり踏み込んだアクションだ。

 だから中国は「強力な対抗措置」を表明し、かつて見ない規模で台湾を含む第一列島線周辺に軍艦、軍用機を投入する軍事演習を展開したのだ。

 頼清徳政権は台湾のねじれ国会問題ほか内政に深刻な問題を抱えており、そのうえ社会には疑米論も根強い。だからこそ、外交面で成果を出し、台湾の国際社会における地位を確立させたい。

 予測不可能なトランプ政権登場は、台湾にとって米国はじめ西側諸国を味方につけて中国の軍事恫喝(どうかつ)を正面から跳ね返し、国際社会の主要メンバーにカムバックできる世紀のチャンスかもしれないからだ。