引き金を引くのは当然、あの人

 米中台の駆け引きは、従来のように拮抗したままであれば現状維持ということになるが、一つバランスが崩れれば、それこそ後戻りできない、ポイント・オブ・ノーリターンの域にいたるだろう。

 そして、トランプはまさに、これまでのバランスを維持しようと努力するタイプではなく、予測不可能な発言や判断で、バランスを突然ひっくりを返しそうな人物なのだ。

 米海軍は「中国を打ち負かせる実力がある」といい、習近平は「戦争準備、戦争に勝てる準備をせよ」と解放軍に指示を出し、頼清徳政権は「戦争回避のための戦争準備」を掲げている。

 これを単なる軍事筋肉ショー的な三つ巴の牽制と軽くみてはならない。これほどまでに、米中台が戦争の覚悟を表に出して語り始めたことには留意すべきだ。

 映画などで、銃を構えあって三つ巴で威嚇しあっているシーンで、最初に引き金を引くのは、たいてい一番弱く焦っている人物だ。

 トランプ、頼清徳、習近平の3人の性格を見比べれば、3人とも強いリーダーをアピールし、独裁者気質で、あまり他人の意見に耳をかさず、愛国者的。だが、私が見るに、習近平が一番小心者だ。中国が一番経済的にも追い詰められ、内政が不安定だ。

 習近平が予測不可能なトランプに怯えて、非合理的な判断をして軍事衝突が起きてしまう危険性は来年から2027年にかけて高まり続けるのではないだろうか。

福島 香織(ふくしま・かおり):ジャーナリスト
大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。主な著書に『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所、2023)、『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房、2023)など。