習近平が抱えるマール・ア・ラーゴのトラウマ
12月8日のNBCのインタビューでも習近平との関係が良いことを強調しつつ、対中関税を引き上げ経済制裁すると何度も繰り返している。だが、軍事力の使用については「それは言わない。言ったら駆け引きにならない」といった形であいまいにしている。
トランプは軍事力を使う事態にはさせない、という自信があるのかもしれない。中国側はこうしたトランプの態度をもって、台湾に対して「トランプ政権は台湾を見捨てる」といった世論誘導を仕掛けようとしている。
新たなトランプ政権には対中強硬派が多い一方、台湾通がいるかというと第1期政権のときと比べて際立つ親台湾派はいない。
トランプは選挙前、台湾に対しては「半導体産業が盗まれた」などと、台湾を牽制するような発言を繰り返している。もともとリベラル寄りの若者が多い台湾社会にはいまだ「疑米論」、つまり台湾は米中の政治駆け引きのカードとして利用されて、最終的には見捨てられるのではないか、という懸念は根強い。
興味深いのは、トランプが1月20日の大統領就任式典に習近平を招待したいと自ら伝えていたこと、その返事をまだ受け取っていないことなどを12月11日に明らかにしたことだ。CBSによれば、米国務省の記録上、1874年以来、米国での大統領就任式に外国の元首が出席したことはなく、通常はその国の駐米大使か外交官が出席するという。
台湾は頼清徳総統の特使として韓国瑜立法院長(国会議長、野党国民党)が出席することになっている。
このトランプの意図についてはすでに様々な評論家が「鴻門之会」(項羽と劉邦の歴史的な会見、劉邦は暗殺されかけたが臣下の機転で救われる)に例えて論評していた。つまりトランプが習近平を呼び寄せ、あわよくばその野心を砕きたいと思って、習近平を就任式に招待したという見方が多い。
第1期トランプ政権の2017年4月、習近平がトランプの私邸マール・ア・ラーゴに招待されてトランプと初めて会見したときに、晩餐会で、チョコレートケーキを食べながらシリア空爆の事実を告げられた逸話を思い出した人もいたかもしれない。
習近平は思わず、「子供や赤ん坊にガスを使う残虐な者に対してなので(武力行使は)問題ない」という中国の外交立場上ありえない返答をして、習近平の無能ぶりを米国と国際社会に披露してしまったトラウマがある。
恐らく、こうしたトラウマから習近平はこの招待に対し、脅されることを恐れて返事をしなかったのだろう。
一方で、一部の中国の外交官僚の間では、この招待にポジティブな反応をする声もあった。