災害に強い社会へ生かされる教訓
大きな災害があると、尊い命が失われるなどした末に、「災害に強い社会」に向けた教訓を得ることもできます。
阪神・淡路大震災の場合は、建造物の在り方が大きな教訓として残りました。実は、この震災では犠牲者の9割は倒壊した建物の下敷きになった「圧死」だったことがわかっています。しかも、被災した建物のうち、98%は旧耐震基準でつくられたものでした。
1981年に施行された「新耐震設計基準」(新耐震)は、建物の倒壊を防ぐだけでなく、建物内にいる人の命を守ることに主眼が置かれ、震度6~7程度の地震では崩壊・倒壊しない耐震性が求められています。
震災後、神戸大学工学部建築学科の学生が遺族に網羅的な調査を実施したところ、旧耐震の家にいて犠牲になった人は回答を得られた1218人のうち実に98.1%に達していたのです。逆に、新耐震で犠牲になった人は15人にとどまりました。
発災時は、新耐震の運用開始から15年ほどが経過していましたが、耐震基準が変わっても実際に耐震化は進んでおらず、犠牲者が増えたことが浮き彫りになったのです。そうした結果、阪神・淡路大震災が起きた1995年の10月には耐震改修促進法が施行され、学校や体育館などの公共施設、百貨店やホテル・旅館など大勢の人が集まる建造物には耐震診断が義務付けられ、早期の耐震改修が求められるようになりました。
そのほか、自衛隊と地方公共団体との連携、消防車も入れない住宅密集地を解消する都市計画、救助活動技術の向上など、その後に生かされている教訓は枚挙に暇がありません。
2025年1月17日には神戸を中心として、被災した各地で慰霊祭が行われることになっています。尊い犠牲のうえに再興された阪神の街。当日は祈りを捧げつつ、阪神・淡路大震災をめぐるこれまでの出来事や教訓も振り返りたいものです。
【参考】
◎内閣府防災情報「阪神・淡路大震災 教訓情報資料集」
◎神戸市「阪神・淡路大震災」
◎NHK「阪神・淡路大震災 特集サイト」
◎神戸新聞「特集 阪神・淡路大震災」
◎サンテレビ「阪神・淡路大震災」
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「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。