シュンペーターの教えとは?
中野:シュンペーターの著書は、非常に難解で、十分に内容を理解している人はそう多くはないと思います。そこで、この失われた30年を打ち止めにするため、シュンペーターが言わんとしていたことをみなさんに知ってもらいたいと思っています。
──「シュンペーター的な経済システム」とはどのようなものですか。
中野:シュンペーターは1912年に『経済発展の理論』を発表しました。その中で、シュンペーターは現在の主流派経済学の基礎である市場均衡理論と真っ向から対立するような主張をしました。
市場均衡理論は、個人が自己利益を最大化するために自由に経済活動を行うと、市場原理が働いて需要と供給が一致する、というものです。
シュンペーターは市場均衡理論では、イノベーションや経済発展が説明できないことを指摘しました。そして、経済の中でどのようなダイナミズムが起きて発展を遂げていくのかを突き詰めて考えた結果が『経済発展の理論』です。
また、シュンペーターは1942年に発表した『資本主義・社会主義・民主主義』の中ではさらに踏み込んで「市場で完全競争をするとイノベーションは起きない」と断言しました。
ところが、日本はこの30年間、バブル崩壊後の日本経済の停滞を打破するためには、市場原理に任せて自由競争を促進すればいいという方向で規制緩和や民営化を推し進めてきました。
当時の日本の経済政策を担当した政治家や官僚、あるいは経済学者は市場で自由な競争が起こればイノベーションが起き、経済は発展すると思い込んでいました。しかも、それがシュンペーターの教えであると勘違いしていたのです。
シュンペーターの主張は全く逆です。
戦後、日本はシュンペーターの教えの通り、過度な競争ではなく適度な競争制限をすることで経済を発展させてきました。けれども、ここ30年は「市場原理で自由競争を」という政策ばかりしてきた。その結果、イノベーションも経済成長も起こらなくなったのです。
──なぜ競争を制限するとイノベーションが起こり、経済が発展するのでしょうか。