シュンペーター派が訴える株主資本主義の危険性
──利潤を確保して次のイノベーションに向けて再投資をする米国のやり方が、株主資本主義によって崩れてしまったという話が書籍に書かれていました。これは、具体的にどのような現象だったのでしょうか。
中野:株主資本主義は、教科書的な市場原理主義に従って出てきた考え方です。株価は各企業の価値を正確に反映するので、自由な株式市場での株の取引に任せておけば、効率的な企業の株価がより高くなる。その結果、効率的な企業が株式市場から選ばれるから経済全体が効率的になる──というロジックです。
したがって、株式市場を活性化するためにさまざまな制限を取っ払うべきである。企業は株価を上げることを目指して活動すべきだ。そういうイデオロギーが1980年代以降、米国で蔓延しました。
シュンペーターは1950年に亡くなりましたので、彼自身が直接、株主資本主義に異を唱えたというわけではありません。株主資本主義に対して、その危険性を指摘したのは、シュンペーターの流れを汲む経済学者たちです。
イノベーションは企業が起こすものです。しかしそれは、株主だけの手柄ではなく、経営者の手腕、さらには従業員・労働者の能力のたまものです。
本来であれば、イノベーションによって得られた利益は、労働者、経営者などいろいろなステークホルダーに分配されてしかるべきです。ところが、株主資本主義においては、利益はすべて株主のものであり、株価として反映させるべきだという議論になってしまいます。株主が、利益を独り占めしてしまうのです。
利益をステークホルダーに分配することはおろか、次のイノベーションのための研究開発投資や設備投資に回せなくなります。株主が強くなると、研究開発投資や設備投資よりも株主への利益還元が優先されてしまうのです。
そんな企業がイノベーションを起こせるわけがありません。これが、1980年代のシュンペーター派の経済学者たちの主張です。
──米国では、1980年代以降の株主資本主義の流行により、設備投資も研究開発投資もやりにくくなりました。にもかかわらず、なぜ米国にはいまだにイノベーションを起こす会社が複数存在しているのでしょうか。