収支計画が付く驚くべき上申書の内容

 さて、五代の上申書は非常に長文であるので、ポイントだけ紹介しておこう。第1弾として、まずは肥前(佐賀)などから余剰米を買い漁り、上海にて売りさばく。これは膨大な利益を生むが、その他に茶・生糸・椎茸・昆布・干鮑なども上海で売れば、その利潤は計り知れないと提案する。

 第2弾として、その利益で製糖機械を輸入し、あわせて技術者も外国から雇用する。そして、砂糖を大量に精製し、それを輸出する。第3弾として、そこから上がる莫大な利益によって、蒸気軍艦、大砲、銃といった軍需品、さらには貨幣製造機、農作機械、紡績機械なども輸入すべきであると建言したのだ。

 ちなみに、五代はこれら3弾を実行する前提として、留学生の派遣を強く提言した。そして、これらの買い付けは、留学生に同行する視察員(使節団)が行うと提案した。非常にリアリズムがある、上質な上申書と言えよう。

 ところで、五代の上申書は細かな収支計画が付されていた。現在であれば、企画書には収支計画が含まれることは常識であろうが、当時では画期的なことであった。もちろん、五代自身に様々な費用が分るはずもなく、これはグラバーの意見によるところも大きかったことは想像に難くない。しかし、五代自身の緻密な調査や、商才に負うところも見逃してはならないのだ。そして、その後の薩摩藩の富国強兵策が、この上申書に沿って進められた事実はさらに興味深い。五代、恐るべしである。