ナンバープレートは「1000」

 プロ野球のレギュラーシーズンは、どの球団も週末の3連戦を終えた月曜日は移動日などにあて、試合がないことが多い。

 巨人担当はこのとき、決まって都内のホテルに顔を出していた。駐車場で、当時の読売新聞の発行部数(公称)1000万部にあやかった「1000」のナンバープレートをつけた渡辺氏の専用車を見つけると、各社の記者はそろってロビーなどで待機した。

 夜9時を過ぎるころ、有力政治家らとの会食を終えた渡辺氏が帰途に就くために姿を見せる。筆者が巨人を担当していた2008、09年は、原辰徳氏の第2次政権下だった。

 渡辺氏はすでに高齢だったこともあり、酒に酔って、ふらふらとゆっくり歩みを進める。そこに10人くらいの記者が一斉にICレコーダーを手にぶら下がって質問をぶつけるのだ。

渡辺氏の“ぶら下がり取材”に殺到する記者=2014年(写真:共同通信社)

 シーズンが佳境に入ると、「リーグ優勝」「リーグ優勝でも、クライマックスシリーズ(CS)で敗れて日本シリーズ進出を逃す」「CSも勝って日本シリーズ制覇」など、監督が続投するための条件について考えを聞き出すことが狙いだった。大新聞社のトップだが、プロ野球報道に携わる若い記者たちの質問を避けることなく耳を傾けた。

 聞き取れないほどの小さな声のときもあるが、ときに翌朝の紙面をにぎわすような発言も飛び出した。球団人事に大きな影響力を持つだけに、酒に酔った中での発言でも記事になった。