「大統領を背後で操る人物」として韓国人の脳裏に刻み込まれたひとりの女性

 これを機に、韓国メディアは、尹錫悦政権に対する金夫人の強大な影響力に対するうわさが広まっていると報じ始めた。

〈金夫人は、自分が尹錫悦政権誕生に相当な影響力があると考えている。以前から政界周辺では「V1、V2」という言葉が出回った。VはVIPの略語で大統領を指すが、V2は金夫人を指す。つまり、金夫人の影響力が強いという趣旨の新造語〉(東亜日報)

〈大統領室の首席秘書官がいる席で金夫人が大統領を見下ろすような言動をする場面を何度も目撃したという与党関係者の証言がある〉(中央日報)

今年7月20日、韓国・ソウル中心部では、尹錫悦大統領の弾劾を求める大規模なデモが行われていた。デモの参加者の中には、尹大統領に対し、国政操作疑惑がある金建希夫人への特別検察による捜査に応じるよう要求する人々もいた(写真:Lee Jae Won/アフロ)
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 ファーストレディーという「選挙で選ばれていない」人物が、国民が選出した大統領に代わって国家権力を振るうという疑惑は、韓国国民に朴槿恵政権の「国政壟断疑惑」を思い出させた。朴大統領の弾劾に火をつけたのは友人である民間人・崔順実(チェ・スンシル)氏が国政に参加したという「国政壟断フレーム」だったが、金夫人に対するうわさが事実ならばそれこそ国政壟断になるわけだ。

2023年9月、ニューヨークの国連本部での尹錫悦大統領の演説を、足を組んでじっと聞く金建希夫人(写真:YONHAP NEWS/アフロ)
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 尹大統領が突発戒厳令を宣布した主な背景の一つには、野党の絶え間ない「金建希特検法発議」に尹大統領が圧迫されていたことがあったというのが、国内外メディアの共通見解だ。ただ、茶番劇のような突発戒厳令宣布は、逆に尹大統領に対する国民的弾劾世論を沸きあがらせ、金夫人を特検の手中に押し込む不幸な自爆行為となってしまったようだ。

 高位公職者を捜査する公捜処では、金夫人に対する出国禁止を要請する意思を明らかにしている。12日に国会を通過した金建希特権法について、大統領権限代行の韓悳洙首相は年内いっぱい検討する意向を表明した。だがいずれにしても、尹大統領があれほど阻止したかった金建希特検はいずれ国会を通過し、韓首相も拒否権の行使を控えざるを得なくなるのは確実視されている。

 特検候補がいずれも野党推薦の進歩性向の人物という点で、金夫人に対する捜査は政治的偏向性に走る可能性が高く、金夫人が拘束起訴されるという見通しがある。尹大統領に対する内乱罪の捜査が迅速に進められている状況で、もしかしたら元大統領夫妻が同時に収監される不幸な歴史が生まれるかもしれない。