笑えて泣けるピュア・エンターテインメント
それに加え、撮影の数週間前から撮影地となるブライトン・ビーチに住んで、地元の人たちやストリッパーたちと交流を持ちながら、ロシア訛りでニューヨーク的な直接的で早い英語を習得するように努めたというマディソンや制作陣の準備の入念さには敬服するしかない。
物静かに、少し照れながら、理知的に演技について話すマディソンのインタビュー映像を見ると、演者本人とアノーラとの乖離の大きさに驚くばかりだが、女性の権利を声高に言うわけでもなく、ただ自分の人生を自分の生きたいように力強く進む、現代的なひとりの女性を映画に出現させるため、この映画には膨大な準備とアイディアが詰め込まれている。
そのことを念頭に置いてみると、この笑えて泣けるピュア・エンターテインメントを一層楽しむことができるだろう。
※日本では2025年2月28日公開
元吉烈(もとよし・れつ)
映像作家・フォトグラファー
米ニューヨークを拠点に主にドキュメンタリー分野の映像を制作。監督・脚本をした短編劇映画は欧米の映画祭で上映されたほか、大阪・飛田新地にある元遊廓の廃屋を撮影した写真集『ある遊郭の記憶』を上梓。物価高騰のなか$20以下で美味しく食べられる店を探すのが最近の趣味で、映画館のポップコーンはリーガル・シネマ派。。