アノーラを演じきったマイキー・マディソンの魅力
ブリトニー・スピアーズがラスベガスで酔った勢いで幼なじみと結婚し、55時間後に別れたという話は、当時から20年経った今でもベイカーの記憶に残っていたらしく、富と若さを暴走させた二人は、ラスベガスで婚姻届けを出すことになる。
ところが、我が子が相応しくない女性と結婚したことに激怒した両親が、二人を離婚させるためにアメリカに向かっていることを聞いたイヴァンは、突如、虚ろな目になって失踪。アノーラは豪邸にひとり残され孤立無援の状態になるも「自分はイヴァンと別れる気はない(イヴァンもないはず)」と離婚を受け入れない。
当初はアノーラと、イヴァンのお目付係たちとの対立だったものが、最終的にはロシアから駆け付けたイヴァンの両親が、イヴァンを上回る「ディール」でアノーラを説得する展開となる物語後半は、二人の関係を清算しようとする人々に対して、挑発や説得、皮肉だけでなく時には甘えた口調を織り交ぜる言語的な多彩さに加え、屈強な男たちと取っ組み合いを演じる肉体的な強さを見せるマディソンが圧巻だ(マディソンはほとんどの格闘シーンをスタントなしで演じたという)。
当然、この役を演じるに当たってのマディソンの準備も周到だ。
クエンティン・タランティーノ監督による「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」でマンソン・ファミリーの一員を演じたマディソンの演技に一目惚れしたベイカーが、マディソンの出演承諾を得た後に脚本執筆をしたという本作は、脚本段階からマディソンの意見が取り入れられた。
マディソンは、エスコートガール兼ダンサーだった経歴を持ち、現在は作家として活動するカナダ人のアンドレア・ウェアハンをコンサルタントに幾度もミーティングをおこない、キャラクターの細部まで入念にリサーチをしたという。