奥さんから告げられた窮乏
さて、私がテッドとどのように関わったのかをお話ししましょう。
私がアスキーという会社で電子マネーのプロジェクトを手がけていた頃、テッドと一緒に仕事をする機会を得たのです。
当時、私は出版社を経営しており、ワールドワイドウエブ(WWW)上で情報を有料で提供するビジネスモデルを模索していました。
従来の出版社は、広告収入と情報販売で成り立っています。
しかし、ワールドワイドウエブ上では情報は無料というのが主流です。
そこで私は、電子書籍のようなパッケージ販売ではなく、クリックごとに少額の料金を支払うマイクロペイメントの仕組みを考えました。
これは、世界中の出版社や著者にとって有益な仕組みになると考えたのです。
テッドをはじめとする暗号や電子マネーの専門家たちを米国から招き、半年ごとに日本に集まって議論を重ねました。
私は彼らに報酬を支払い、研究開発を支援しました。
テッドにとっては、私のところに行けばお金がもらえる、という認識だったかもしれません(笑)。
ある時、テッド夫妻が私のところにやって来て、奥さんから「テッドが生活に困窮している」と聞かされました。
食料を買うお金もないという状況でしたので、私は彼にプロジェクトへの参加をもちかけ、生活費を支援することにしたのです。