イランの核関連施設を視察する最高指導者ハメネイ氏=2023年撮影(提供:Iranian Supreme Leader/ロイター/アフロ)

「トランプ2.0」が緊迫する中東情勢に与える影響に世界が注目している。トランプ氏は1期目のときにイラン核合意から離脱したほか、革命防衛隊の司令官を殺害するなど強硬姿勢だった。イスラエル・ハマス紛争の終わりが見えないなか、2期目は中東にどんなインパクトを及ぼすのか。在イラン日本大使館で専門調査員も務めた慶応義塾大学の田中浩一郎教授に聞いた。

(湯浅大輝:フリージャーナリスト)

ガザ地区停戦合意は手札切れ

──日本時間11月27日に、バイデン大統領がイスラエルとイランが支援するレバノンのイスラム教民兵組織ヒズボラの停戦合意を発表しました。イスラエルとハマスの戦闘はまだ続いていますが、米大統領に返り咲くトランプ氏は、これからイランに対してどのような政策を打ち出すと見ていますか。

慶応大・田中浩一郎教授(以下、敬称略):非常に厳しい政策を打っていくでしょう。イランから見れば「歓迎できない方の大統領が誕生した」というところでしょうか。2018年には核合意から離脱していますし、20年にはイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害しています。

 トランプ氏が再び大統領に就任しても、2023年10月から続くガザ地区でのイスラエルとハマスの戦闘は収束しないでしょう。一方、イスラエルとヒズボラとの停戦合意が発効しましたが、履行をめぐって対立が生じることは避けられず、イスラエルびいきのアメリカがモニターすることも不安材料です。

田中 浩一郎(たなか・こういちろう)慶応義塾大学 大学院政策・メディア研究科 教授 中東研究者。1961年生まれ。東京外国語大学外国語学部ペルシア語学科卒業、東京外国語大学大学院外国語研究科アジア第2言語修了。在イラン日本国大使館専門調査員などを経て、1999年から2001年まで国際連合アフガニスタン特別ミッション政務官を務め、タリバン旧政権末期の和平交渉にあたった。その後、日本エネルギー経済研究所常務理事兼中東研究センター長などを経て、現在は慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。中東地域の国際関係やエネルギー安全保障について研究を行う。

 劣勢に立たされたヒズボラをイランが見捨てるはずはありません。イランにとってハマスやヒズボラは、イスラエルに対して至近距離から抑止力を利かせられる都合のいい存在です。その彼らへの支援を継続していくことも、トランプ氏の不興を買うでしょう。

 トランプ氏は非常に親イスラエル色の強い政治家です。「ハマス殲滅」を掲げるイスラエルのネタニヤフ首相からすれば、トランプ氏は「好き勝手」にさせてくれる大統領であり、願ってもない存在です。

 すでにイスラエルはハマス最高指導者のハニヤ氏、後任のシンワル氏も殺しており、「殲滅」という目的はほぼ達成しているように見えます。残る目標はガザ地区からのパレスチナ人の追放、さもなくば皆殺しなのでしょう。

 イスラエルによるフィラデルフィア回廊(エジプトとガザの境界)の支配やガザ地区でのイスラエル軍駐留なども、パレスチナ側は容認できないでしょう。

 アメリカとしても、ガザ停戦を実現するために切れるカードはもうほとんどありません。イスラエルとハマスの戦闘が1年にわたって続いているのは、バイデン氏の無策という責任も大きく、事態がこれだけ拡大した中で、トランプ氏にできることはほ限られていると見るべきです。

──残るカードがあるとすれば、それはなんでしょうか。