米国の「二枚舌」外交への嫌悪感

 第三に、米国の「二枚舌」外交への嫌悪感である。

 米国は、ウクライナとパレスチナの紛争では、ロシアに厳しく、イスラエルには甘い。何もこれらの紛争に限らず、米国は、アジア・アフリカ・ラテンアメリカのグローバルサウスにおいて、親米か反米かという基準で世界各国の紛争に介入してきた歴史がある。

 筆者は、中東・アフリカ諸国に長く居住・滞在して、現地の有識者と意見交換をしてきたが、本音では米国への反発は強いことが多い。「米国の二枚舌はいい加減勘弁してほしい」という声もよく聞く。

 これらの本音は国連総会や安保理における投票行動にも表れている。米国・西側諸国提案の議案に対して、反対・棄権する国は決して少なくない。

エルサレムに掲げられたトランプ勝利の祝賀看板(写真:ロイター/アフロ)エルサレムに掲げられたトランプ勝利の祝賀看板(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ氏の「米国第一」政策のもと介入・関与が弱くなり援助なども減るのであれば、これを好機と見て、BRICSになだれ込むこともありえるだろう。

 日本メディアは、世界情勢を米国目線で報道することが多く、グローバルサウスの動きは見えにくいが、しっかりとフォローすることが大事である。

 もちろん、BRICSにも課題はある。加盟国やパートナー国の思惑には違いが大きく、米国・西側諸国との距離感も様々である。また、国際決済や新通貨などがどこまで本格化するかは見通せない。BRICSのけん引役を期待されている中国経済も低迷している。

 グローバル展開を目指す日本企業としては、米国・西側に軸を置きつつも、拡大と成長が著しいグローバルサウスを含むBRICS経済圏をビジネスパートナーとして取り込んでいくべきであろう。米ドル以外での決済への対応は大いに進めていくべきである。

 米国・西側目線の報道からだけであると、世界の大きな潮流を見落としてしまう。トランプ氏の当選は、国際社会の地殻変動の始まりかもしれない。

山中俊之(やまなか・としゆき)
著述家/芸術文化観光専門職大学教授

 1968年兵庫県西宮市生まれ。東京大学法学部卒業後、1990年外務省入省。エジプト、イギリス、サウジアラビアへ赴任。対中東外交、地球環境問題などを担当する。首相通訳(アラビア語)や国連総会を経験。外務省を退職し、2000年、日本総合研究所入社。2009年、稲盛和夫氏よりイナモリフェローに選出され、アメリカ・CSIS(戦略国際問題研究所)にて、グローバルリーダーシップの研鑽を積む。
 2010年、企業・行政の経営幹部育成を目的としたグローバルダイナミクスを設立。累計で世界96カ国を訪問し、先端企業から貧民街・農村、博物館・美術館を徹底視察。ケンブリッジ大学大学院修士(開発学)。高野山大学大学院修士(仏教思想・比較宗教学)。ビジネス・ブレークスルー大学大学院MBA、大阪大学大学院国際公共政策博士。京都芸術大学学士。コウノトリで有名な兵庫県但馬の地を拠点に、自然との共生、多文化共生の視点からの新たな地球文明のあり方を思索している。五感を満たす風光明媚な街・香美町(兵庫県)観光大使。神戸情報大学院大学教授兼任。
 著書に『世界94カ国で学んだ元外交官が教える ビジネスエリートの必須教養 世界5大宗教入門』(ダイヤモンド社)。近著は『世界96カ国をまわった元外交官が教える 外国人にささる日本史12のツボ』(朝日新聞出版)。