手術用のメスをハンマーに持ち替えるトランプ氏(写真:AP/アフロ)手術用のメスをハンマーに持ち替えるトランプ氏(写真:AP/アフロ)

 トランプ政権が誕生したことで、米国を含む主要国が進めていた経済安全保障の取り組みは見直される可能性が高い。「保護」「振興」「連携」をベースにした経済安全保障である。トランプ2.0で経済安全保障の枠組みはどのように変わるのだろうか。(菅原 淳一:オウルズコンサルティンググループ・シニアフェロー)

トランプ2.0は「ブレーキのない暴走車」になる?

 米大統領選は共和党候補のドナルド・トランプ前大統領の大勝に終わった。選挙人538人(過半数270人)のうちトランプ氏が321人、民主党候補のカマラ・ハリス副大統領が226人を獲得。7つの激戦州のすべてをトランプ氏が制した。

 前回トランプ氏が当選した2016年選挙では、総得票数がヒラリー・クリントン候補を下回ったが、今回は総得票数(一般投票)でもハリス氏を上回った。議会選でも、上下両院を共和党が制するトリプルレッドである。大統領と上下両院の多数党が同じになれば、大統領の政策の円滑な遂行が期待される。

 こうなると、懸念されるのはトランプ氏による「暴走」だ。閣僚や大統領補佐官など、政権幹部の指名も進んでいるが、資質や経験よりもトランプ氏への忠誠心の厚さが重視された人選と指摘されている。

 トリプルレッドになったといっても、上院では議事妨害(フィリバスター)を阻止できる60票には達していない。上院共和党トップの院内総務には、トランプ氏への忠誠心が厚いリック・スコット議員(フロリダ州)を破って、ジョン・スーン議員(サウスダコタ州)が選出された。

 現在、指名されている閣僚候補が全員上院の承認を得られるかも、承認手続きを経ずに済む「休会(中)任命」を上院が黙認するのかも定かではない。また、下院の議席はいまだ確定していないが、共和党と民主党の議席差はわずかであり、少数の議員の造反で法案は通らなくなる。

 こうした点を考えれば、すべてがトランプ氏の思い通りに進むとは言えないが、明確な「ブレーキ役」も存在しない。政権幹部の人選が進むにつれ、第1期政権(トランプ1.0)時のように、トランプ氏の「行き過ぎた」政策の軌道修正を図る人物は、政権内にはいなくなるのではないかと懸念する声が上がっている。

 連邦最高裁をはじめ、保守化が一層進む司法にその役割は期待できそうもない。第2期トランプ政権(トランプ2.0)は、前回よりもトランプ氏の意思が政策に反映されやすい、より「トランプ化」した政権となるのは確実だ。トランプ氏が選挙戦で打ち出した公約の実現可能性も自ずと高まっている。