マジメな行成が「お金がほしい」と言った背景

 ドラマでは、隆家に「大宰府で目を治して、都に戻ってまいれ」といって送り出す道長の姿があった。

 実際に、隆家は大宰権帥を辞すると、帰京を果たしている。後任として大宰権帥になったのが、道長を支えた「四納言」の一人、藤原行成である。今回の放送は、その伏線として行成が大宰府行きを希望するという展開もあった。

 大宰府に行きたい理由として行成が「己の財を増やしたく存じます」と言ったので、意外に思った視聴者もいたかもしれない。

 だが、行成は幼い頃に父方の祖父や父を失っており、有力な後ろ盾がいなかった。子どものことを考えると、自分がいくら出世しても十分とは思えなかったのだろう。そんな背景まで踏まえて見ると、今回の『光る君へ』は一つ一つのセリフが見逃せない、見ごたえのある作品に仕上がっている。

 次回は「望月の夜」。道長が残した有名すぎる和歌「この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも 無しと思へば」を『光る君へ』ではどう解釈するのだろうか。

【参考文献】
『新潮日本古典集成〈新装版〉紫式部日記 紫式部集』(山本利達校注、新潮社)
『藤原道長「御堂関白記」全現代語訳』(倉本一宏訳、講談社学術文庫)『藤原行成「権記」全現代語訳』(倉本一宏訳、講談社学術文庫)
『現代語訳 小右記』(倉本一宏編、吉川弘文館)
『紫式部』(今井源衛著、吉川弘文館)
『藤原道長』(山中裕著、吉川弘文館)
『紫式部と藤原道長』(倉本一宏著、講談社現代新書)
『三条天皇―心にもあらでうき世に長らへば』(倉本一宏著、ミネルヴァ日本評伝選)
『偉人名言迷言事典』(真山知幸著、笠間書院)

【真山知幸(まやま・ともゆき)】
著述家、偉人研究家。1979年、兵庫県生まれ。2002年、同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年より独立。偉人や名言の研究を行い、『偉人名言迷言事典』『泣ける日本史』『天才を育てた親はどんな言葉をかけていたか?』など著作50冊以上。『ざんねんな偉人伝』『ざんねんな歴史人物』は計20万部を突破しベストセラーとなった。名古屋外国語大学現代国際学特殊講義、宮崎大学公開講座などでの講師活動も行う。徳川慶喜や渋沢栄一をテーマにした連載で「東洋経済オンラインアワード2021」のニューウェーブ賞を受賞。最新刊は『偉人メシ伝』『あの偉人は、人生の壁をどう乗り越えてきたのか』『日本史の13人の怖いお母さん』『文豪が愛した文豪』『逃げまくった文豪たち 嫌なことがあったら逃げたらいいよ』『賢者に学ぶ、「心が折れない」生き方』『「神回答大全」人生のピンチを乗り切る著名人の最強アンサー』など。