戦前、内務省と帝国陸軍が主導する形で、日本は世界をリードしていた。伝研からは北里柴三郎、志賀潔、野口英世など、ノーベル賞候補に挙げられる研究者がでている。

 ところが、第二次世界大戦の敗戦によって、事態は一変する。伝研はGHQ(連合国軍総司令部)により解体される。その後継は、現在の東京大学医科学研究所と国立感染症研究所だ。

 帝国陸軍は消滅し、陸軍病院は厚生省に引き継がれる。戸山の国立国際医療研究センターは元陸軍病院だ。ちなみに、築地の国立がん研究センターは、元海軍病院である。

 このようにワクチン開発に関わる組織は、戦後、GHQが主導する形で再編された。ただ、看板をかけ替えたが、本質は変わらなかった。関係者の多くが免責され、かつての「軍産複合体」の系譜を継ぐ製薬企業や研究機関の幹部として復職したからだ。「軍産複合体」の特徴は、国民の健康よりも、国家の目標を優先することだ。

注目すべきは明治HD子会社の「ルーツ」

 私は、今回のレプリコンワクチンの承認でも、このような歴史が影響していると考えている。注目しているのは、明治がKMバイオロジクスという子会社を抱えていることだ。その前身は、戦前、ワクチンや抗血清の開発・製造を担った実験医学研究所だ。実験医学研究所は、伝研OBで1924年に熊本医科大学教授に就任した太田原豊一の提唱で同大学内に設置され、戦後、化学及血清療法研究へと改組した。KMバイオロジクスは、この化血研の医薬品製造販売業などを継承して2018年に発足している。

 コロナワクチン開発での国益とは、安全保障上の観点から、国産ワクチンを保有することだ。関係者はこのことを最優先し、レプリコンワクチンの承認では、世界標準に反してでも安全性の評価を軽視した。

 ワクチンは健康な人に接種するため、高いレベルの安全性が求められる。ファイザーやモデルナのワクチンの承認が議論された2020年ならともかく、コロナウイルスが弱毒化し、さらに他に使用できるワクチンがある現時点で、コスタイベを「仮免許」で承認しなければならない理由はない。

 これまで明治が公表している臨床試験は、828人および927人を対象としたものの二つだけだ。ワクチンの安全性を評価するには規模が小さすぎる。明治は東南アジアなどで大規模な臨床試験を進めており、安全性に関する結果が出てから承認してもよかった。

 私はコスタイベの可能性を高く評価する。注射したコロナウイルスのmRNAが体内で自己複製されるため、少量のワクチンで効果が長続きすることは、今後のパンデミック対策の準備のためにはありがたい。ただ、この可能性とコスタイベの安全性の検証は別次元の問題だ。

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