式部の娘・大弐三位は文才があり陽気な性格だった
大弐三位はさすが式部の娘だけあって、文学的な才能が豊かだったようだ。百人一首の歌人として知られており、こんな歌を残している。
「有馬山 猪名(ゐな)の笹原 風吹けば いでそよ人を 忘れやはする」
〈有馬山の近くにある猪名(いな)では、笹原に生える笹の葉がそよそよと音を立てている。そうですよ、どうして私があなたのことを忘れることがありましょうか〉
詞書によると、自分のもとにあまり通わなくなってきた男が「私をお忘れではないでしょうか、心配です」と言ってきたのに対して、「お前がな」とばかりに言い返した時の歌なのだという。
大弐三位は負けん気が強く、陽気な性格だったといわれている。その点は、母の式部とは対照的だ。やはり何かとアグレッシブだった藤原宣孝が大弐三位の父親であり、性格は父譲りだったのかもしれない。
式部が退職して宮中を去った後は、大弐三位が彰子に仕えることになる。式部の後継者という意味でも、大弐三位が物語後半のキーパーソンとなるのではないだろうか。
【参考文献】
『新潮日本古典集成〈新装版〉紫式部日記 紫式部集』(山本利達校注、新潮社)
『現代語訳 小右記』(倉本一宏編、吉川弘文館)
『紫式部』(今井源衛著、吉川弘文館)
『紫式部と藤原道長』(倉本一宏著、講談社現代新書)
『敗者たちの平安王朝』(倉本一宏著、KADOKAWA)
『藤原伊周・隆家』(倉本一宏著、ミネルヴァ書房)
『偉人名言迷言事典』(真山知幸著、笠間書院)
【真山知幸(まやま・ともゆき)】
著述家、偉人研究家。1979年、兵庫県生まれ。2002年、同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年より独立。偉人や名言の研究を行い、『偉人名言迷言事典』『泣ける日本史』『天才を育てた親はどんな言葉をかけていたか?』など著作50冊以上。『ざんねんな偉人伝』『ざんねんな歴史人物』は計20万部を突破しベストセラーとなった。名古屋外国語大学現代国際学特殊講義、宮崎大学公開講座などでの講師活動も行う。徳川慶喜や渋沢栄一をテーマにした連載で「東洋経済オンラインアワード2021」のニューウェーブ賞を受賞。最新刊は『偉人メシ伝』『あの偉人は、人生の壁をどう乗り越えてきたのか』『日本史の13人の怖いお母さん』『文豪が愛した文豪』『逃げまくった文豪たち 嫌なことがあったら逃げたらいいよ』『賢者に学ぶ、「心が折れない」生き方』『「神回答大全」人生のピンチを乗り切る著名人の最強アンサー』など。