商業不動産向け融資のデフォルトが金融危機の引き金か
連邦準備理事会(FRB)の利下げのペースが鈍化し、構造的なインフレ懸念を意識して長期金利の上昇トレンドが続く可能性は十分にある。
長期金利の上昇が株価に悪影響を与えるのは言うまでもない。イーロン・マスク氏が率いるテスラなどトランプ氏返り咲きの恩恵を受けると見られている「トランプ銘柄」は急上昇しているものの、どこかのタイミングで「暴落」する可能性も否定できない。
米国の時価総額は名目国内総生産(GDP)で割った値は9月末時点で約2倍と過去最高となっている。「割高感が高まっている」との声で出ており、長期金利が上昇すれば、大幅な調整局面となるとのシナリオも現実味を帯びてくる。
筆者が最も懸念するのは米商業用不動産へのダメージだ。
コロナ禍以降、米国で在宅勤務が急速に普及したことが災いして、オフィス需要の不振が続いている。特に古い物件ではテナント離れが進み、「空き」が埋まらない状況が続いており、大幅なディスカウント価格で売却される事例が相次いでいる。
格付け会社ムーディーズは「2026年までに米国の全オフィススペースの4分の1近くが空室になり、商業用不動産の価値が2500億ドル(約38兆円)減少する」と試算している。金融機関は商業用不動産融資を絞り始めているが、ニューヨーク連銀は10月23日「商業用不動産融資が金融システム全体へのリスクを増大させている」と警告を発している。
ブルームバーグによれば、商業用不動産の所有者は2025年末までに1兆5000億ドル(約225兆円)相当の債務が返済期限を迎える。その4分の1は借り換えが困難とされる。
長期金利が上昇すれば、借り換えが困難となりデフォルトする案件がさらに増加する。金融機関の連鎖倒産、最悪の場合、金融危機が発生する可能性もあるだろう。
トランプ氏が所有する商業用不動産にもオフィス不況の波が押し寄せてきている。
自らの施策が招く長期金利の上昇が仇となって「虎の子」の資産が毀損(きそん)する事態となれば、これほど皮肉なことはないのではないだろうか。
藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。